第6話 【カードショップ】子供店長、現る(3)


「み、見せてもらっていいですか?」


 垂涎すいぜん眼差まなざしを向ける白愛。そんな彼女に対し、やっと状況が飲み込めたのか、ニヤリと口のはしり上げると、


「ああ、構わないぜ!」


 レッカ先輩は、そう言って筐体きょうたいに近づくと――バサリッ!――と音を立て、やや大袈裟おおげさに掛かっていた布をぎ取る。


「それ、やりたかっただけよね……」


 とはミーヤさん。いつの間にか、俺の隣に立っていた。

 頬に手を当て、手のかかる子供を見守るような視線を送りながらつぶやく。


 背筋に悪寒が走るのを感じ、俺は思わず距離を取った。


「そんなに怖がらなくてもいいのに……」


 しゅん――とミーヤさんは悲しそうな表情をする。


「す、すみません」


 一応、謝りはした。

 だが、俺はどうにも、この人が苦手だ。


「わぁー、すごーい!」


 と白愛。筐体きょうたいの周りをうろちょろしてはしゃいでいる。

 そして、その様子を得意げに見詰めながら、


「アッハッハ!」


 と高らかに笑うレッカ先輩。


「まあ、電源はまだだから、動かないけどな……」


 と小声で付け加える。


(子供が二人もいる……)


 そんなことを考えながら、


「あの……」


 先生、ここは?――と俺は質問した。


「ああ、すみません……」


 律儀に謝る花園先生、続けて


「ここは今度開店する――」「カードショップだ!」


 聞こえていたのか、先生の言葉をさえぎるようにレッカ先輩――いや、レッカが答える。


「アタシは店長の『ほむらレッカ』!」


 そう言って、親指を立て自分の胸を指す。

 ズバンッ!――という効果音が聞こえて来そうだ。


「で、こっちが――」「保護者の『星咲ほしざきミーヤ』です☆」「おいっ!」


 レッカの突っ込みを無視して――よろしくね♡――とミーヤさん。

 白愛に手を振る。


 こちらこそ――と白愛は慌てて頭を下げた。

 どうやら、俺とは違い、白愛に苦手意識はないようだ。


「子供店長にミーヤさんですね。どうも、黒鉄彼方と――」「雪城白愛です♪」


 俺と白愛は頭を下げる。


「お前、いい度胸してるな」


 大人気おとなげなく、額に怒りマークを表示するレッカに、


「まあまあ、先輩。いつものことですから……」


 と花園先生。なだめるつもりだったのだろう。

 しかし、レッカは、


「お前も大概たいがいひどいよな」


 そう言ってあきれた表情を見せた。

 一方で、そんな遣り取りには興味がないのか、白愛は、


「あ、あの! カードショップってことは――」


 先程、買うことのできなかったカードが『ここでなら手に入るかも!』そう思ったのだろう。期待の眼差まなざしでレッカを見詰める白愛だったが、


「ああ……まだ商品、届いてないんだわ」


 とレッカ。見ての通りだった。

 店内は空っぽだ。


「そ、そうですか……」


 ガクン――と頭を下げ、落ち込む白愛。

 今日の彼女は、また一段と感情の起伏きふくが激しい。


 見ている分には面白い。だが、大抵の面倒事は俺が対処する羽目になるので、適当に制御コントロールする必要がある。


 レッカは白愛の肩をポンっとたたくと、


「まあ、そう落ち込むな……」


 開店したら、また来てくれ――と告げる。

 落ち込んだ白愛の代わりに、


「わかりました。子供店長」


 と俺は返す。


「お前はもう来るな!」


 とレッカ。大人気おとなげない対応だ。そんな彼女を、


「まあまあ、先輩……」


 と花園先生がなだめる。

 その一方でミーヤさんが、いつの間にか円卓テーブルを準備していた。


「折角だし、お茶でも飲んでいって……」


 とミーヤさん。ティーセットとクッキーを運んできた。

 しかし、その言動になにかトラウマでもあるのだろうか、


「い、いえ、遠慮しておきます!」


 青褪あおざめた表情で花園先生が遠慮する。それをさっしたのか、


「ま、あまり帰りが遅くなっても、親が心配するだろうしな……」


 レッカが空気を読み、帰りやすい雰囲気を作った。


(まあ、単に俺たちが邪魔だった可能性も否定できないが……)


「あら、そう……」


 残念そうにミーヤさんは肩を落とした。

 紅茶の香りと手作りだろうか、クッキーの美味しそうなにおいが――


なんだろう? あのクッキーは危険な気がする……)


 俺は花園先生が遠慮した理由を理解し、


「じゃあ、子供店長。また」


 そう言って、軽く手を振る。当然のように、


「お前はもう来るな!」


 と言われてしまった。先程、エントランスで会った女性が言っていたのは、間違いなくレッカのことだろう。


 一人、状況を理解していない白愛だけが、


「私は来てもいいですか?」「おう、来い!」「やったー♪」


 と嬉しそうにしていた。

 やれやれ、俺の時とは偉い対応の違いだ。

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