第5話 【カードショップ】子供店長、現る(2)


「大丈夫だ」


 俺は、その手をにぎり返すと、階段をゆっくりとのぼる。

 この手の建物の階段はれていると滑りやすい。


 そのうえ、子供にとって、少々急で優しくはない。

 気を付けながら二階へとがると、そこは開けたフロアになっていた。


 テナント用の部屋がいくつか用意されている。

 ただし、そのほとんどは募集中の張り紙があり、空き店舗のようだ。


 まだ日は出ているというのに薄暗い。

 その一角――階段に一番近いテナントの場所――にだけ、電気が点いていた。


 陳列ちんれつだなやガラス張りのケースから推測するに、恐らく、ゲームなどの玩具おもちゃを取り扱うお店なのだろう。


 俺たちは花園先生の後に続き、中へと入る。

 予想した通り、しんと静まり返っていた。


 白を基調とした改装中のフロア。

 そこに布を被ったゲームの筐体きょうたいが置かれている。


 白愛は俺よりも先に気が付いたのだろう。

 興味津々といった様子で見入っていた。


(先程までビクビクしていたのに、現金なヤツだ……)


 やれやれ――と俺は肩をすくめる。

 まあ、飲食も済ませたし、身体も温まったことで調子が出てきたのだろう。


「こ、これって……」


 白愛はそうつぶやくと、その大きな瞳で合図するように視線を送る。

 俺はそんな彼女に対し、コクリとうなずいた。


 そう、予想通りなら――


なんだ、興味があるのか?」


 と女性の声。視線を向けると、そこにはエプロン姿の小柄な少女が立っていた。

 中学生くらいに見える。


 店員だとは思うが、客商売にも関わらず、不敵な笑みを浮かべていた。

 更に、その目つきの悪さが気になる。


「あっ、先輩!」


 その少女に向かって、花園先生が軽く手を振る。


「ようっ☆ ノノ、待たせたな!」


 と少女。どうやら中学生ではなく、大人のようだ。


「いえ……私の方も時間が作れなくて、すみませんでした」


 ペコリと頭を下げる花園先生に対し、


「まあ、教師なんてそんなもんだろ」


 少女はそう言って――にししっ――と笑った。


「先輩の方も、大変そうですね」


 改装中の店内を見回し、言葉を返す先生に対し、


「ああ、予定より遅くなっちまった……」


 こっちの世界のルールに手間取ってな――と少女。

 多分、未成年にしか見えないからだろう。


 そんな感想を俺がいだいていると、


「子供あつかいされて、最初は相手にされなかったのよね♪」


 今度は別の女性が口をはさんできた。こちらは、ちゃんとした大人だ。

 黒髪というよりも、漆黒という印象を受けるつやのある長い髪。


 それを後頭部でい、作業の邪魔にならないようにしている。

 先輩と呼ばれた少女と同じエプロンをしていることから、この人も店員だろう。


 かなりの美人だが『綺麗』というよりも、どうにも『不気味』という印象が先行してしまう。俺は思わず、一歩後退あとずさりしてしまった。


「あらあら、嫌われてしまったかしら?」


 微笑ほほえむ女性。そんな彼女に対し、


「ミーヤ……余計なことは言わなくていいんだよ!」


 と少女。ミーヤと呼ばれた女性は少女にキッとにらまれるも、動じた様子はない。

 れているのだろう。その証拠に、


「相変わらずですね」


 と花園先生は――フフフッ――と笑った。


「えっと、レッカ先輩……」


 用事を済まそうとしたのだろう。少女の名前はレッカというらしい。

 花園先生はかばんからなにかを取り出そうとしていた。


 しかし――あらあら――とミーヤさん。


「ノノちゃん、久しぶりね♪」


 こちらは生徒さん?――と質問を投げ掛ける。

 どうやら、マイペースな性格のようだ。


 花園先生は――お久しぶりです――と挨拶あいさつを返した後、大きめの茶封筒を差し出す。


「メールで、お伝えした通りですが……」


 レッカ先輩、これが例の資料です――と少女へと渡した。


「おう、ご苦労……」


 で、そいつらがそうなのか?――レッカ先輩は封筒を受け取る。

 すると、今度は俺たちを見た。


「はい、白愛ちゃんと彼方くんです」


 花園先生は先輩二人に説明する。

 なにやら、勝手に話が進んでいるようで気持ちが悪い。


 また、向こうは俺たちのことを知っているようだ。

 いったい、どういうことだろうか?


「す、すみません! これって、もしかして……」


 こっちはこっちで、全然話を聞いていない白愛が目を大きく開き、


「〈マジジェネ〉の筐体きょうたいですか?」


 フンスッ!――と鼻息も荒く、レッカ先輩とやらに声を掛ける。


「お、おうよ……」


 そうだぜ!――とレッカ先輩。

 突然の白愛の豹変ひょうへんぶりに戸惑ったのか、若干、歯切れが悪いようだ。

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