第4話 【カードショップ】子供店長、現る(1)


 もし、前世の記憶というモノを持っていたのなら、人はどんな大人になるのだろうか?――俺はたまに、そんなことを考える。


 育ててくれた両親を裏切り、周囲の人間をあざむき、当然のように社会に溶け込む。

 うそきながら、時に自分さえだましながら生きていくのではないか?


 そんなことを考えてしまう。

 花園先生はあの後、考え直したのか、ココアを俺に返そうとした。


 生徒から『物を取り上げる』という結果に、怖くなったのかもしれない。


(やはり、評価は元に戻すべきだろうか?)


 俺としては今更なので、先生にあげることにした。

 どうにか、受け取ってもらうことに成功する。


 そんなり取りの後、俺と白愛は先生に連れられ駅に来ていた。

 駅前のビル群――とはいっても、活気などとは無縁の場所だ。


 地方はどこもこんな感じだろう。

 駅を利用する乗客を標的ターゲットとしたビジネスホテルや飲食店がある程度だ。


 そのため、小学生である自分はあまり来たことがない。

 そもそも、こんな地方では通勤や通学以外で電車を使う人の方が珍しい。


 一時間に一本、電車があればいい方だ。

 当然、利用する人も減るという悪循環が生じる。


 建ち並ぶビルも、見上げるほどに高くはなかった。

 テナント募集中の張り紙も目立つ。


 そんなビル群の中で、商用として利用されている建物へと向かう花園先生の後について行くと――


「まったく、これだから推進派の連中は……」


 あら、ごめんなさい――とスーツ姿の女性。

 髪は短く『できる女』といった風体だ。


 しかし、きつい性格に見えるのは、俺の気の所為せいだろうか?

 丁度、エントランスから出て来た彼女と花園先生がぶつかりそうになる。


 当然、花園先生は相手に道をゆずろうとした。

 だが、相手は知り合いだったようだ。


貴女あなたは……」


 スーツの女性は『目の前の相手が花園先生だ』ということに気が付くと眉間みけんしわを寄せた。先生も相手が何者なにものか理解したようで、


「管理局の――すみません……」


 また、先輩が怒らせるようなことをしましたか?――と彼女に謝る。

 それと同時に質問をした。


 相手の女性にとっては、その態度が予想外だったらしい。

 肩の力を抜き、態度を軟化させたようだ。


貴女あなたも大変ね……」


 あんな『わからず屋』の下につくだなんて――と女性。

 失礼な態度だが、花園先生は笑って誤魔化していた。


 白愛はすでに俺の後ろに隠れている。


「ねぇ、貴女あなたもそう思うでしょ? すべての『魔法少女』は……」


 ワタシたちのもとで管理すべきだって――と女性の言葉はまらない。

 どうやら余程、腹にえかねることがあったようだ。


「あ、あの、その話は……」


 と花園先生。やんわりと相手の話をめさせようとする。しかし、


「いくら人の姿をしていても、持っている力は兵器と変わらない……」


 それを『あの女』ときたら――と続ける。

 める気配はないようだ。


「『信じて成長を見守るべき』だと言うのよ!」


 それどころか、どんどんとヒートアップしている気がする。


「その結果が『この現状だ』というのに、まったく『ことの重要性』を理解して……」


 あら?――そこまで話して、ようやく、俺と白愛の存在に気が付いたようだ。

 女のヒステリーというのは、なかなかに面倒だ。


 経験上――好きに言わせておくのがベストだ――ということは分かる。

 だが、花園先生も困っているようだ。


 俺は――お姉さん、なにをそんなに怒っているの?――という表情で見上げることにした。こういう時は、子供である特権を使うべきだろう。


 彼女は急に気不味くなったのか、コホンと咳払せきばらいをすると、


かく貴女あなたからも、あの女を説得してみて……」


 それじゃあね!――女性は言いたいことだけを伝えて去ってしまった。

 花園先生は『困りましたね』と言う表情で、


「あははは……」


 と笑って頬を掻いた。本来は納得のいく説明が欲しいところだが、


「色々な人がいますね……」


 さあ、行きましょうか?――と俺は花園先生をうながした。

 白愛は困惑していたが、俺が手を取ると黙ってついて来る。


「あ、待ってください……」


 こちらですよ――と花園先生がエレベーターではなく、階段の方へと向かう。

 エントランスは受付があるだけで薄暗く、決して広いとは言えない。


 だが、探検のような気分になり、ワクワクするモノを感じる。その一方で、


「彼方……」


 初めて来る場所に不安を覚えたのだろうか、白愛が俺の手を強くにぎった。

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