第4話 ゴブリン弓兵部隊
「ごぶぅ!」
新たに召喚されたゴブリンは腰みのの中からナイフを取り出すと、綺麗なモーションで壁に向かって投てきした。
ナイフは土壁に突き刺さって落ちない……これは明らかに素人の投げ方ではない。
なるほど……強そうだな、たぶん! 問題はナイフ程度では魔物に刃が立たないことだが!
「お館様、このゴブリンを大量に召喚しましょう。弓兵部隊を編成すれば、遠距離から一方敵に痛手を与えられまする」
「クックック、ちなみに今のでEPを消費しました、確認したいなら再び同じようにしてください」
試しに「【召喚の儀】」と呟いて再び文字を出現させると、『EP残量:499』と表示されていた。
元は500だったはずだから……ほぼ減ってないな。
「ゴブリンはEP消費たった1なのか。ちなみに先日のゴーレムはおいくらで?」
「600くらいかと。それにゴーレムは日々に必要な糧というかEP量も、ゴブリンより遥かにかかりますな」
悲報、ゴブリン君の価値はゴーレムの六百分の一。
でも妥当かもしれない。普通のゴブリンがいくら群れても、ゴーレムを倒せるビジョンが思い浮かばない……。
こ、コストが高いほどよいものとは限らないから……問題はコストパフォーマンスとかだから……。
こうして俺はゴブリンを三百体ほど召喚した。
「弓をつくるでゴブ」
「俺は矢をゴブ」
「お、そこによい羽根があるゴブ」
「ボクの羽根はダメー!」
彼らは全員が外の森に出て行った。おそらく弓矢をつくるのだろう。
「クックック、では数日ほど洞窟で待ちましょう。その間に色々とお教えいたします……」
「……もしかしなくてもこの洞窟が住処か。仮にも魔王なのに」
そうして俺は洞窟で二日ほどを過ごした。
するとゴブリンたちは本当に手作りで木の弓を作成したのだ。
更に鳥などから羽根をむしって矢まで……こうして即席弓兵部隊が完成した!
森の入り口でドヤ顔ゴブリンたちが、みんな弓と矢筒を背負っている。
「いや待て!? 矢じりの鉄どこから持って来た!?」
「クックック、EPで製造いたしました。なに、矢じり程度ならわずかばかりのEP貨幣ですみます」
ゴブリン博士が目を細めながら笑っている……。
「本当にEPで変換できるのか……」
「EPは万能貨幣でございますから。どうせなら実演お見せしましょう、《万象司る糧よ、我が望みに変貌せよ》」
ゴブリン博士が白衣のポケットから一枚のEP貨幣を取り出して、そのまま地面へと放り投げた。
するとEP貨幣が光輝いて膨らんでいき、大量の小さな鉄の矢じりへと変貌した。
「クックック、鉄1kgにつき1EPでございます。まあ細工が凝るものほど製造が難しいので高くなりますが。矢じり程度ならば鉄の塊そのままと変わりません」
「なるほど……機械とかは無理なのか?」
「EPで交換となるとすさまじい量を要求されるでしょうな。現状では無理かと」
残念だ、機械を交換できるなら銃とかで無双できそうだったのに。
「ちなみにEPで造れるモノは、『魔王とその配下の魔物が今までに所持したことのあるモノ』でございます。それだけお気をつけください」
ふーん……今までに所持したことがあるモノねぇ……。
鉄の矢じりは射手ハーピーが持ってるから造れたのか。
そんなことを考えていると、ゴブリンたちが何やら騒ぎ始めている。
「あの木を狙いますゴブ! 発射ゴブゥ!」
ゴブリンの一体が木を狙って試し打ちで弓を放った。
すると矢はまっすぐに木の幹に直撃した!
おお! ちゃんと当たるのか!
「クックック、ゴブリンの弓兵部隊。悪魔国、それに岩国との戦いではよい手駒になるでしょう。なにせ敵の遠距離攻撃は投石程度が石の山ゆえ……」
「今さらなんだがゴーレムに矢って効かないのでは?」
「先日のゴーレムには通用しないでしょう。ですがアレは岩国の主力魔物です。それ以下の雑魚魔物には効果的かと。悪魔国に関しては生身の魔物なので、矢は刺さりまする」
なるほど。悪魔国相手には弓矢は有効なのか。
岩国相手にも矢でつゆ払いをした後に剣豪オーガに突っ込ませると。
なるべく剣豪オーガの体力は温存したいから、雑魚で消費させたくはないもんな。
「大変大変! 悪魔国がいっぱい攻めて来たよ!」
上空から可愛らしい声が響いてくる。
見上げると空から射手ハーピーが滑空して降りて来た。
ところで……彼女、スカートなのに空を飛ぶのは如何かと思うのだが。
ロングスカートだから見えづらいとはいえ……ま、まあ個人のファッションに口を挟んではダメだな。
「クックック、いっぱいとはいくらくらいで?」
確かに数は重要だな。
ゴブリン博士の予想では千を超えると言っていたが、この弱小領地にそんな数出してくるのかは怪しい。
だがこちらもゴブリンが三百体もいるのだ。頑張ったら勝ち目も……。
「千以上!」
「無理では?」
「クックック、相手が岩国ならば厳しかった。ですが悪魔国ならば勝ち目はあると思われます」
「……岩が相手よりマシ程度だろ」
岩国のゴーレム相手だと矢の効果は薄い。
だが悪魔国の悪魔は生身だ。矢が通るのも先日のハーピーが証明済み。
つまり絶望的ではない。うまく兵を運用すれば勝ち目はある……はず。
「クックック、敬愛する主様。どうかご采配を、我ら一同従いまする」
ゴブリン博士は地に片膝をつけて、俺に頭を下げて来た。
「お前は指揮しないのか?」
「クックック。魔王は強くあらねばなりません。トップであるお方がここぞで指揮しなければ、魔物たちはついてこずに裏切る。遅かれ早かれ肉国は滅びます。なればここはひとつ」
魔物って裏切るのか。召喚主を寝返るのはできないとかはない、と。
ようはゴブリン博士は俺に対して、魔王のカリスマ性を持てと言っているのだ。
…………いきなりここに出現して意味不明な状況だ。魔王とか言われてもそこまで実感はわかない。
だがひとつだけ、何故か心の中で確信できていることがある。
領地がなくなったら死ぬ、とだけは理解できる。おそらく魔王としての生物的な勘なのだろう。
動物が生存本能で危険を理解できるように。
ならばやるしかないよなぁ……わけも分からずに死ぬわけにはいかない!
少し深呼吸して周囲の配下たちを見渡した後、俺は覚悟を決めた。
「……わかった。ならばこれより悪魔国の軍を迎撃する! 出陣するぞ!」
「「ははっ!」」
「わーい! やるぞー!」
ゴブリン博士と剣豪オーガが仰々しく返事をして、射手ハーピーが楽しそうに笑っている。
「「「「「「ごぶうううううう!」」」」」」
周囲にいたゴブリンたちも声高らかに叫ぶ。
どうやら俺の魔王としての最初の出陣命令は、彼らにとって満足のいくものだったらしい。
こうして我が肉軍総勢304名は出陣するのだった。
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