第3話 武芸の小鬼
「クックック。ではひとまずの説明も終えたところで、早速ここは我が軍を増強いたしましょう」
ゴブリン博士は奇怪な笑みを浮かべた。
「いや待て。EPとやらを貯めた方がよいのでは? 食料を無駄遣いしたら……」
「クックック、貯めたいのはやまやまですがね。実は我が国は周囲の他国の国土を奪う形で出現しました。なので目の仇にされております。いつ攻めてきてもおかしくありません」
「いじめか?」
「クックック。これをご覧ください」
ゴブリン博士は俺に一枚のくるんだ紙きれを差し出してくる。
広げるとそれは地図であった。
※★が我が国
│──────│──│─│
│ │魚国│岩│
│ 獣国 │ │国│
│ │───│ │
│ │悪魔国│─│
│─────│───│★│
「クックック。わが国は岩国と悪魔国の領土をかすめ取った故、先ほどは岩国のゴーレムの軍が取り戻しに来たのです。追い返しましたがあれは様子見、次は本格的に攻めてくるでしょう」
「それってもしかしなくても俺達が悪いのでは……」
いきなり国土奪われたら、当然取り返しに来るに決まっている……。
「いえいえ、生まれたことが自体が罪と言われるのは理不尽。我らは正当に防衛すべきですよ、クックック。さもなくば殺されるのみ。領土を失えば敬愛する主様は死にますが」
話し方こそ薄気味悪いが、ゴブリン博士の言い分ももっともだ。
生まれて来たことが罪とか言われても困るし、何にしても俺は抵抗せざるを得ない。
こちらにも非があるので、話し合いはしてみるべきかもだが。
「そして悪魔国もこの土地を狙ってくるでしょうね。我らは二つの敵国に挟まれております」
いじめかな? 上と左からのサンドイッチとか酷すぎるだろ……。
いや右と下からは絶対に攻めてこられない立地なだけ、まだ救いがあるのだろうか……。
「な、なるほど……ところで岩とか獣とかはどういう意味だ? ただの国名とは思えないのだが」
「クックック、これは各魔王の名称です。実は所有国土で取れる食料次第で召喚できる魔物に差異がありましてな。それで便宜上、各魔王の主力魔物の名称を国名にしています」
「あー……岩の魔国だからゴーレム軍が攻めて来たと?」
「左様でございます。理解が早くて何より、岩国は岩塩が取れましてな。なので岩の魔物が召喚できます」
へぇ……取れる食べ物次第で召喚できる魔物が変わるのかぁ……。
特産品とかそんな話かな? 海が近いから海産物がとか。
「じゃあ俺の国で取れる特産品は何だ?」
「ありません。どこでも収穫できる小麦だけです」
「あれ? でも俺が呼び出したオーガとハーピー、それにゴブリンって統一性あるか?」
俺の国でとれる食べ物が小麦だけならば、呼べる魔物も一種類だけのはずだ。
オーガとゴブリンだけなら鬼繋がりかもしれないが、ハーピーは異種的過ぎるだろう。
俺の問いにゴブリン博士はふっと笑った。
「クックック……クックック……クックック」
「いや笑ってるだけじゃねえか答えろ」
「失礼、考えておりました。おそらくですが『肉』的な感じでは? どうやら敬愛する主様の隠しスキル『人の遺伝子』で、召喚できる魔物の種類が変貌したのかと。小麦ではハーピーは呼べませぬしな」
肉て。いや確かに召喚できる魔物の範囲は広そうだけども、肉て。
「クックック……召喚できる魔物の範囲が極めて広いようで」
ゴブリン博士は少し悩みながら答えてくる。
「さしずめお館様は肉王と」
「焼肉屋の名前みたいだからやめろ!」
「わーい! 肉王様ー!」
「やめろって言ってるだろうが!?」
「クックック、肉王様。それで話を戻させていただきます」
悲報、俺の名称は肉王にされた模様。
じゃあ国の名前は肉国だが!? お前ら所属する国がそれでよいのか!?
それと俺が生まれてこの土地が変貌したって言うけど、さっきの理論だと特産物が増えると呼べる魔物が増えるんだよな?
つまり俺自身が特産物という話では……いや忘れよう。
魔物が人間を美味しく頂くとか考えないほうが精神衛生上よい。
「岩国は主力のゴーレムが消えたので少し態勢を整えるでしょう。なので次は悪魔国が攻めてくる可能性が高いです。先ほどのような突発的な進軍ではなく、おそらく千を超えた軍勢を引き連れて」
ゴブリン博士が話を戻したので耳を傾ける。
せ、千……いくら剣豪オーガが強くても千は無理だよなぁ。
そんな頼みの綱のオーガに視線を向けると、彼は少し腕を組んだ後に。
「ゴブリン博士よ。岩の魔物には四足の悪魔がいた。あれは悪魔国のものでは?」
「その通りだ、岩国と悪魔国は同盟を結んでいる。魔物を交換していると見てよい」
「つまり最悪では岩と魔の両方の国を相手取る必要があると」
剣豪オーガは淡々と告げるが最悪すぎるだろう。
岩国と悪魔国合わせたら、国土面積何倍差の相手なんですかね……。
「クックック、故に魔物を召喚するしかないのですよ。貯金などとてもとても。では敬愛する主様、改めて魔物を召喚いたしてください」
「召喚ってさっきの魔物しょう……」
「お館様、なりませぬ。唱えては」
魔物召喚と言い切るところで、剣豪オーガの大きな手が俺の口というか顔全体を塞いできた
あ、危ない……呪文を普通に唱えてしまうところだった。
「す、すまん。さっきの呪文を唱えればいいのか?」
「いえ今後はEP設定からやって頂きましょう。【召喚の儀】とお唱えください」
「【召喚の義】」
唱えた瞬間に空中に文字が出現した。
────────────────
EP残量 :500
EP消費 :小 中 大 極 全
召喚種別 :肉
固有スキル :人
────────────────
「クックック、小の文字をお触りください」
言われた通りに空中に浮かぶ『小』の文字を指で触れる。
すると『中』などの他の単位を示す文字が燃えるように消え去った。
「次は肉の文字をお触りください」
今度は『肉』を指で触るが何も変わらない。選択肢がひとつしかないからだろうか。
「これで後は【魔物召喚】と呟くだけでございます」
「固有スキルは押さなくてよいのか?」
「……クックック。敬愛する主様にはそんなものがあるのですか。普通の魔王にはないはずの欄とは……とりあえず押してみては?」
試しに『人』の文字を押すと金色に光り輝き始めた。
な、何かよく分からないが特別感があるな! 何かよく分からないけど!
「クックック、では改めてどうぞ」
「【魔物召喚】!」
俺の足もとにすごく小さな魔法陣が出現して、瞬時に腰みのだけつけたゴブリンが出現した。
……演出しょぼすぎない?
さっきの剣豪オーガとか射手ハーピーに比べると、ガチャのシークレットレアとノーマルくらいの差が……。
「クックック。こやつらはただのゴブリンですから……む?」
「ただのゴブリンってそんな可哀そうな……ってどうした?」
ゴブリン博士は同族のゴブリンを少し凝視した後に、「《彼の者の神髄を見通せ》」と唱えた。
普通のゴブリンの周囲に文字が浮かび上がる。
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
ゴブリン ランクF
力 :F
敏捷:E
体力:E
魔力:―
知力:F
技能:武芸の小鬼
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
更にゴブリン博士が手を振ると、新たに文字が追加されていく。
――【武芸の小鬼】・・・弓や剣術などをそれなりに扱える。
「クックック! なんと! 我が敬愛する主様の人の力は、たかがゴブリンにすら適用されるとは!」
「本来ならばゴブリンなど数合わせ。だがこの者たちならば、揃えればかなりの戦力になる。流石はお館様」
「ご主人様すごい!」
今回は何となく強そうなのはわかるぞ!
ゴブリン揃えて弓兵でも運用すれば強そうだし!
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