第2話 大事なのは食料
三体の魔物たちがゴーレム軍を粉砕した後、元いた洞窟へと戻って来た。
「クックック。我らの力、いかがだったでしょうか?」
ゴブリン博士が相変わらず薄気味悪い笑い声をあげる。
いかがだったでしょうかって。思ってたより色々とヤバかったよ。
オーガは無双プレイのようにゴーレムを両断し、ハーピーは相手の上を取って遠距離弓狙撃。
「あのゴーレムって実は発泡スチロールで造られてたりしない?」
「お館様、あれは純度百パーセント岩だ」
剣豪オーガは淡々と答えてくる。
そこに自慢などの類はいっさい混ざっていない。
武士のような言葉づかいに剣を扱う。このオーガはまさに武士みたいな感じだな。
「クックック、普通のオーガではゴーレムをぶった切るなど到底できませぬ。むしろオーガ二体がかりでも、ゴーレムに勝てるかどうか……これも敬愛する主様が人の力を付与して召喚したからこそ」
「えっ? 普通のオーガって本当にゴーレムに勝てないレベルなの? 敵の悪魔っぽいの曰く、剣豪オーガはオーガとあまり強さが変わらないとか言ってたが……マジ?」
あれだけ好き放題にゴーレムをかち割っておいて、本来はオーガの方が弱いですとか言われても……。
「ステータスだけで見れば、剣豪オーガは魔物としては中の上程度でそこまで強くありませぬ。ですが人の技術を持つ故に。先ほども申しましたが、人間でも素人と武芸者では同じ生物とは思えぬほど力の差が出ます」
「まあそりゃそうだが……じゃああれか? 剣豪オーガは普通のオーガと戦っても圧勝するのか?」
「クックック、百人斬り程度は余裕かと。普通のオーガは武器を扱えませぬ故」
剣豪すげぇ。
素手と得物持ちという違いもあるだろうが、それを鑑みても戦力差生まれすぎだろう。
剣豪オーガをまじまじと見つめていると、後ろから柔らかいものが抱き着いてきた。
「ボクも! ボクも普通のハーピーより強いよ!」
射手ハーピーの顔が俺のすぐそばにある。
待ってものすごく近い!? この娘、翼があるのと足のかぎ爪以外は美少女だから困るんだけど!?
「クックック、普通のハーピーは弓など使えませぬ。遠距離手段など精々が空から石を落とす程度」
「な、なるほど……」
「褒めて! 褒めて!」
「す、すごいぞー」
「わーい!」
射手ハーピーは俺のお褒めの言葉に上機嫌になって、翼を動かし始めた。
……待って!? 俺まで少しずつ浮いてるんだけど!?
思わず足を空中でバタバタするがビクともせんぞ!?
「射手ハーピー。敬愛する主様が驚いておられるので降ろしなさい」
「えー」
「えーではありません。嫌われますよ」
「それはダメ! 降ろす!」
射手ハーピーが俺を解放したのは無事に地に足をつけることができた。
……ふ、浮遊感って結構怖いな。
勝手に他人に自分の身体を好きにされる感じが……。
それにこの娘、見た目こそ華奢だが俺を持ちあげるとはかなり力があるぞ。
たしか力はDだったはずなのに……Dでも人間の男を簡単に持ち上げるレベルなのか。
「では敬愛する主様、先ほど省いた魔王について軽く説明いたしましょう。不明点があればどうかその場でお聞きくださいませ」
ゴブリン博士は恭しく頭を下げて、愉悦の表情を浮かべる。
あ、相変わらず怪しすぎる……。
「魔王とは魔物を召喚して統べる国王でございます。領土を自らの命として、糧を稼いで生きるのが目的」
魔王の説明は先ほどと同じだが、新しく『糧』というキーワードが出て来たな。
「糧とは食料のことか? いや魔物が何食べるのかわからないけど」
「仰る通りでございます。この食料こそが国運営の肝にして、万象司ると言っても過言ではない
さっき出て来た謎単語の
マジックポイントをMPみたいな感じで。
「……エネルギーポイントの略称か?」
「いえそういったものではございません。EPはこの世界の言葉ですが……地球風に直すとイートポイントでございます」
「飲食チェーン店のお買い得ポイントか何か?」
「クックック、失礼して……これが一魔物分のEPを貨幣に変えたものでございます」
ゴブリン博士は虹色に輝く貨幣を手に持って、俺に見せびらかしてくる。
「ではこれを本日の食事として拝借させて頂きます。よろしいですか?」
「あ、ああ。別にいいけど……」
ゴブリン博士はその虹色貨幣を口に入れて咀嚼、そして飲み込んだ。
本当にあのEP貨幣が食事なのか……。
「このEPは民から徴収した食料から作り出したものです。魔王は食料とみなされるものであれば、何でもEPに変換が可能です。このEPで魔物を召喚しまた食事を用意します。魔物によって本来食べられるモノは違いますが、そこはEPで全て補えます」
「便利だなEP……」
「お館様、召喚時にはEPの込める量で魔物の質が変わったりもする」
「EPで他魔国と交換なども行えるでしょうな。更に……少し割高ですがEPで望む物質を生成できます」
EP凄い……でもなんかこれ既視感あるな。
貨幣を食べるってのが子供の頃になんかあったような…………あっ、五円チョ〇…………。
少し頭痛がしてきたので考えるのをやめた。
「つまり領土を増やして、税を多く受けとってEPを稼ぎましょうということですな」
「なんかアレだな。戦略シミュレーションゲームみたいな」
「クックック、チープな例えにて簡易に表すとは流石は敬愛する主様……」
ゴブリンはニヤリと歯茎を見せびらかして笑ってくる。
いやごめんって、流石にちょっと例えが悪かったかも……。
「ちなみに食料生産ってどうやってるんだ? 魔物が日々作物を育てているのか?」
「左様でございます。この世界には農奴となるブーモという人型妖精がいまして、その者たちを魔王が支配……いえ共存しております」
「支配」
「共存でございます。ある日、平和に暮らしていたブーモたちの前に突如として魔王たちが現れました。そして彼らは魔物を召喚して、ブーモを従属させたのでございます」
……うわーい。この世界わりとヤバイやつだった!
というかこの世界に人間はいないのだろうか? それだと俺の立場ってヤバくないか?
「あの……ところで俺、人間なんだけど……魔物じゃないけど大丈夫だろうか?」
「クックック、敬愛する主様は魔王でございますれば。愚かな人類とは違うかと」
「お館様は人ではない」
「ご主人様ー」
俺の言葉に対して、他の魔物たちは「何言ってんだこいつ?」みたいな反応を示す。
いや最後の射手ハーピーだけ返事になってないけど……。
「よいですか? この世界は元々ブーモたちが住んでいて、石器時代に近い文明レベルでした。そこにいきなり魔王が現れてブーモを従属させた。それ以降はブーモたちが魔王に作物を納めています。それだけ覚えていてくだされ」
「わ、わかった…………」
「クックック、この世界に人間はいません。そしてブーモは人間の子供のような見た目です。もしかしたら人間とルーツが同じかも知れませぬな」
この世界、もしかして人間が進化できなかった世界線みたいなのでは……。
道理でさっきの戦いで敵の悪魔が、大剣のことを棒切れとか言ったわけだ。
人間がいないので剣という存在自体もこの世界にないのかも……。
おうち帰りたい……いやどこに帰ればいいのか分からないけど……。
「とにかく! 魔物を多く召喚して軍勢を作るのです! そうして大魔王となるのです!」
「お、おお。とりあえず頑張るよ……」
「それとこの私にEPをある程度使わせて頂きたいのです。敬愛する主様の手助けのために」
「…………まあいいけど」
この怪しいゴブリンに生命線であるEPを預けるのは物凄く不安だ。
でも現状ではこいつの手助けなしでやっていくの無理そうだしな……。
「ちなみに俺の食事もあのEP貨幣?」
「魔王に食事は不要です。EP節約のためにしばらくは断食で」
「……はい」
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ようはEP=食べ物が全ての世界、という話でした。
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