第1話 ここはどこ?
気がつくと俺は知らない洞窟の中にいた。
壁に松明がかけてあるので少し薄暗いが周囲は見える。
「クックック、我が敬愛する主様。ようこそいらっしゃいました」
そんな俺の目の前には謎生物がいた。
緑肌で耳をとんがらせた子供のような体躯は明らかに人間ではない。漫画で出てくるゴブリンそっくりにしか見えない者は恭しく頭を下げてきた。
白衣を着てメガネをつけていてわけわからん! 似合ってない!
「な、なんだお前は!?」
「クックック、ワシはゴブリンでございます。魔王として召喚された貴方様を、この世界の覇者として導く役目を仰せつかいました」
「は、はあ……」
意味が分からない。聞きたいことが多すぎて頭が空回りしている。
いや落ち着け。こういう時は直前のことを思い出せ。俺は地球の日本の高校生で、と思い浮かべた瞬間だった。
「ーーッ!?」
頭に激痛が走って思わず悲鳴をあげてしまう。
まるで頭が硬いもので殴られたようなおかしくなりそうな痛みだ。
しばらくすると頭痛は収まった。だが少しでもまた自分のことを考えるとチリチリと頭が痛くなる……訳が分からない。
ひとまず俺自身のことは思考しない方がよさそうだ。
「ふむ。我が敬愛する主様、大丈夫でございますか?」
「あ、ああ。何とか大丈夫、です」
「我が敬愛する主様、私に敬語を使ってはなりません。貴方は魔王であり私の上に立つお方。そんなお人が逆に敬意を払うなど、下剋上をせよとのご命令でございますか?」
博士のようなゴブリンは薄気味悪い笑みを浮かべる。よ、よくわからないが敬語は使わない方がよさそうだ。
というか現状が全く分からない上に初めて聞いた単語まで出て来たぞ。
「ま、魔王? 何だそれは?」
「ふむ。全て説明すると複雑なので簡単に言いましょう。魔物を召喚して土地を治める者です。自分の命を守るために、周囲にいる魔王たちを打ち破り領地を広げていく」
「魔物の国王みたいなものか?」
「クックック。大雑把過ぎる概要としては正しいかと。領地がなくなれば死にますので生存競争ですな」
ゴブリン博士は不気味な声を出してその鋭い目で俺を見つめてくる。
正直怖い、大きさが子供くらいだからよかった。もし大人サイズだったらと思うと恐ろしい。
「では敬愛する主様、早速ですが魔物を召喚してください。我が領地に対して他の魔王が進軍を開始しております」
「お、おう……」
とりあえず生返事してしまったが、攻めてくると言われてもイマイチ実感が湧かない。
それに召喚と言われても全く意味不明である。だが理由は不明だがこのゴブリンに従うべきとの焦燥感があった。
まるで自分の命に危機が訪れていて生存本能が警鐘を鳴らしているみたいだ。
「ま、魔物ってどうやって召喚すればいいんだ……?」
「クックック、これは失礼致しました。召喚にはいくつか条件がありますがここはこの私めにお任せを。
またEPとかいう謎単語が出て来たぞ。というか本当にこのゴブリンに従ってよいものなのか?
この怪しさが服を着て歩いているような存在相手に。
「クックック。敬愛する主様、後は【魔物召喚】と叫ぶだけです。クックック、決してワシは怪しくはありません、敬愛する主の忠実なしもべです」
あ、怪しすぎる。とは言えだ。
現状でゴブリンの指示を拒んで襲われたらヤバイかもしれない。
逃げるか? いやここがどこかすら分からない。
しばらく悩んだがとりあえず召喚してみることにする。一回くらいなら大丈夫だろたぶん。
「【魔物召喚】」
恐る恐る呟くと足もとに幾何学の円模様――魔法陣――が出現した。陣は青く発光して洞窟内を照らしバチバチと嫌な音を鳴らす。
「クックック、我が敬愛する主の初召喚! 何が出るのでしょうな!」
魔法陣の中央で光が収束して二つの人型を構成していく。そして人型の光が弾ける。魔法陣がガラスのように砕け散って消えた。
その跡には二人の魔物が立っている。
片や2mを超す巨体に筋肉隆々の青色の肌。身にまとっているのは腰みのだけという男らしさ。例えるなら童話で出てくる鬼だ。
それに比べてもうひとりは細身だった。吸い込まれるような黄色の目を持ち、茶色の髪を短く切りそろえた美少女。
ただし背中にワシのような翼、足の先に鳥のようなかぎ爪がある。
「拙者はオーガ。武芸には自信がある。お館様に忠義を尽くす所存」
オーガと名乗った巨漢は地に膝をつけて、両手を合わせて拝むように俺に頭を下げる。
ど、土下座か!? 鬼が土下座!? いや掌を拝むような姿は微妙に違う気もするが。
「ボクはハーピー! 空を飛べるよ! 後は弓を使える!」
ハーピーと名乗った少女は背中の翼をパタパタと動かして笑いかけてくる。
そ、その翼やっぱりコスプレの玩具じゃないのか。
「クックック、なんと我ら全員が人型とは。しかもこれは……敬愛する主よ、失礼いたします。《彼の者の神髄を見通せ》」
何か気になることがあったのだろう。ゴブリンは考え込んだ後に俺に人差し指を向けて来た。
すると俺の周囲に文字が現れて空中に浮かび始めた。
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
サトシ・カミイヅ
力 :E
敏捷:E
体力:E
魔力:E
知力:A
技能:???
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
な、なんだこれは。まるでゲームのステータスみたいじゃないか。
「なんと隠しスキルをお持ちとは。だが《我が知略は万物を識る》」
ゴブリンが更に何かを唱えると、俺の周囲に更に文字が出現した。
――【人の遺伝子】・・・召喚する魔物に地球人類の知識や技術を持たせることができる。呼び寄せる魔物によって会得している能力は変わる。
「クックック。合点がいきました、我が敬愛する主様の召喚する魔物は、人の技術を得ることができると。すさまじい力です!」
「へ、へえ。具体的にはどういう風に?」
ゴブリン博士はすごくテンションを上げている。
人の技術を持つ魔物がすさまじいと言われても、イマイチ実感が湧かないと言うか。
「魔物というのは自分の力で戦います。基本的には武器も使わず、己の爪や拳を使う。それにただ力任せに振るうのみ。そこに武術の玄人が出ればどうなると思います?」
「凄そうではあるが」
「ではもっと分かりやすく。素人同士の徒手喧嘩に、柔道黒帯の者が乱入したとお考えください」
「チートでは?」
どう考えても素人絶対勝ち目ない件について。
法律でも資格を持つ武術家が素人と喧嘩した場合、正当防衛が認められづらいと聞いたことがある。
裁判で考慮されるくらいには素人と武術を学んだ者では戦力差があるのだ。
ところでこのゴブリンは何故柔道黒帯を知ってるのだろうか? 地球人類の知識を得ているからかな?
「その武芸を召喚する魔物に付与できる。つまり我が軍の魔物は武芸で敵の素人魔物を蹂躙できる! いえ武芸だけではありません。人間が持つ知識や鉄の技術などすら会得した魔物も呼べるでしょう! 私も様々な地球の知識を会得しております!」
「お、おお! なんか凄そうだな! よく分からないことが多いけどな!?」
「クックック、やはり百聞は一見に如かず。襲撃してきた敵軍を撃滅して力をお見せいたしましょう! 行きますよ、剣豪オーガに射手ハーピー!」
ゴブリン博士の宣言に対して、残り二人の魔物の反応は両極だ。
ハーピーは楽しそうに笑ってオーガは少ししかめっ面をした。
「わーい、あだ名だ! じゃあ君はゴブリン博士ね!」
「剣豪とは単純な……あだ名とはそういうものかもしれぬが」
……こいつら大丈夫なのだろうか?
オーガはともかくとしてハーピーとゴブリンは弱そうなんだけども。
「クックック、どうやら私とハーピーの強さに疑いの様子。ならばステータスをお見せしましょう。《彼の者の神髄を見通せ》」
ゴブリンとハーピーの周囲に文字が浮かび上がった。
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ゴブリン ランクUnknown
力 :F
敏捷:F
体力:F
魔力:―
知力:Unknown
技能:知の怪物、???
ハーピー ランクD+
力 :D
敏捷:B
体力:D
魔力:―
知力:D
技能:風の読み手、飛翔、三歩失念
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
「いやステータスとやらを見せてもらっても基準が分からん……というかお前の知力が明らかにおかしいだろ」
「クックック、Fが最低値でそこからE、D、C、B、A、Sと上がっていきます。ちなみにプラスはそのランクでの上位を示す値。私の知力は高すぎてSを超えて測定不能なのでしょう」
「自分で言うか? というかお前、知力以外最低値では?」
「ボクは? ねえボクは? ボク強いでしょ?」
ゴブリンは愉悦とばかりに嘲笑。ハーピーは俺の肩を掴んでゆすってくる。
本当にこいつら大丈夫だろうか? というか……ゴブリン、お前ステータスも弱いのでは?
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そしてプロローグに戻ります。
もしプロローグを飛ばした方がいらっしゃいましたら、前話に戻って見て頂けると幸いです。
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