番外編 水色の結婚式

「本当に綺麗だね」


 結婚式当日、教会の前で最後の準備をしていた私は、後ろから懐かしい声がしてゆっくりと振り向いた。

 数年前の大晦日、私がこの世で誰よりも愛していた人が、水色のタキシードを着て立っている。

 そう、あのタキシードは、亡くなったお姉ちゃんが選んだ、大好きな水色の。お姉ちゃんとこの人の結婚式の為に着るはずだった、タキシード。

 それを着たあの人は、あの日から何年も会っていなかったのに、やっぱりとても格好良かった。


「……あの、」

「僕は招待状を貰って居たけど、……ごめんね、どうしても、正式に招待されて行ってしまったら、妹である君をあの子と見間違えそうになってしまいそうで。……泣いてしまいそうで、仕方なかったから。本当にごめんね……だけど、出来ることなら君の幸せを……その門出を、祝いたかったんだ」


 そうやって笑うあの人が、眩しい光の中に溶けて消えてしまいそうな気持ちになった。思わず私が差し伸べようとした手を、あの人は一歩下がることで拒否する。

 ああ、本当にこの人は私の幸せを願ってくれているんだと思ったら、涙が溢れそうになった。


「本当に、本当に、おめでとう。……ほら、早く行っておいで。君が幸せになる瞬間を皆が待ち侘びているよ」


 私の後ろに向けた指を追うと、気付かぬ内に教会のドアが空いていて、私のことを出迎えようとしていた。

 突然振り返った私を少し先で待っていたお父さんが、急かすように小さく声をかけてきたのに答えながら一歩踏み出して、それでもまた後ろを振り向くと、そこにいたはずの水色のタキシードのあの人ははもう居なくなっていた。


「……有難う、私の大好きだった人」


 踏み出した一歩は、あの人への感謝と決別なのかもしれない。




「ねえ、お父さん」

「何だ?」

「あの人が、結婚式に来てくれたんだ」

「ああ、……そうか。良かった」

「やっぱり、嬉しかったよ。二度ともう会えないとしてもさ」

「……もう何年経ったか。お前がいつかの大晦日に会いに行った後、自宅で自殺していたんだったな」

「……うん」

「そういえば。……お前、あの日は何しに彼へ会いに行ったんだ?」

「うん? ……お姉ちゃんの代わりに、会いに行ったんだよ」

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ドロップ缶とお姉ちゃん 朝河侑介 @Kyosuke_Asagawa

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