第16話 2回目の学級裁判
次の日、俺と相葉、そして北条は最後の打ち合わせを行う。情報の照らし合わせの最終確認だ。
「今日はよろしくね。相葉ちゃん…」
「うぅ…うぅぅぅ」
「おい、相葉、返事ぐらいしろよ」
「だっ、だって…怖いんだもん」
なぜか、俺の背中を隠れ
そんな、態度を取られ、北条も少し不機嫌な表情を見せた。
「この子、一回地獄に落とした方がいいわね」
「ちょっと待って!!落ち着け!!、ほら相葉…しっかりと」
「……よ、よろしく」
目線を逸らせ、風のようにさらっと返事をした。
その態度に北条は怒り以上に呆れを感じ、ため息を吐く。
「はぁ〜〜本当に大丈夫なの?」
「た、多分?」
俺も正直、わからない。だけど、昨日やる気から見ても、大丈夫だと……思いたい。それに、どうせ、まだ学級裁判は終わらないしな。
情報の共有や相葉との照らし合わせには苦労したがなんとか、まとめ上げ、気づけば、学級裁判が始まる10分前に迫っていた。
「そろそろ時間ね」
Cクラスの代表とBクラスの代表が『第3会議室』に集まる。
途中で立会人である生徒会長と書紀も合流し、ピリついた空気が漂った。
「集まったな…」
生徒会長は目線を代表生徒に向けると、コクッと軽く頷く。
「では…2回目の学級裁判を始める。まずはBクラス、新しい証拠や証言などはあるか?」
早速始まった学級裁判、最初にBクラスから始まり、東条さんはすぐに口を開いた。
「もちろん、ありますよ!!それではまず、1回目の学級裁判で提示した、調査書の修正そして更新したものを証拠として挙げさせていただきます。それではモニターをご覧ください」
1回目とは違い準備がいいBクラス。新しくまとめた調査書を大きなモニターに映し出す。
「これが修正、更新した調査書です。まず、抜けていたコンビニ付近の生徒の調査ですが、私たちBクラスの調べでは、二人が一緒にいた場面を複数の生徒が見ていたことがわかっています。しかし、その後の二人を見たものはいなかったこともわかっています」
やはり、最初にコンビニ付近の生徒を調べたか、だがそれを提示した時点でこちら側は大いに有利になる。北条、頼んだ……ってあれ?
「………」
表情筋が
「ふん。見たかぎり、特に問題なさそうだな。Cクラス、新しい証拠や証言などはあるか?」
やばい、完全に1回目と同じ状況だ。やっぱり、昨日もう少し念を押しておくべきだったか。いや、そんなこと今はどうでもいい!!なんとかして、北条をもとの調子に戻さないと、ここで決着がついてしまう!!
「シャキッとしろ、北条…」
俺は北条の耳元で囁くと、体が思いっきり飛び跳ねさせながら、左耳を抑えた。
「ちょっ!!」
「………」
北条は何かを察したのか、すぐに冷静に戻る。
これで少しはマシになるといいけど……まぁ顔を見る感じは大丈夫そうだな。
「どうした?北条?」
「あっ、いえなんでもありません」
「それで、Cクラスは新しい証拠や証言などはあるのか?」
北条は一度、深呼吸をして、呼吸を整え、心を落ち着かせ、頭の中を整理する。
そして、北条がゆっくりと口を開き、その姿はまるで一皮向けたような雰囲気だった。
「私は東条さんに一つ聞きたいことがあるのだけど…いいかしら?」
「何かな?璃ちゃん…」
「その調査者は本当に余すことなく、コンビニ付近の生徒をまとめたものなのかしら?」
「ええ、間違いないよ」
「そう、ならそれは嘘ね」
「嘘?何を根拠に言っているの?」
少し圧のある声で北条を問い詰める。
そんな東条綾音に屈せずに、北条はさらに強気で発言する。
「あなた達Bクラスも知っているはずよね。例の噂を…」
「噂って今回の事件を見たっていうあの噂のこと?あんなのデマよ、信憑性の全くないただの嘘、まさか、璃ちゃん、そんな噂を信じたの?」
すると、北条は軽く笑った。
「バカね、東条さん。噂という信憑性のないことをただ切り落とすことしかできないなんて…、実に滑稽だわ」
「何ですって!!」
東条は机思いっきり手を叩きつけるが、北条は気にせずさらに強気で発言を繰り返す。
「じゃあ、出てきてもらいましょうか、例の噂の元凶であり、そして、あの時、現場にいた。証人を…」
「な!?」
「なんだと!?」
東条と真也は驚きを見せる。
「生徒会長、ここで新たな証人を呼んでもよろしいでしょうか」
「いいだろう…」
「じゃあ、来てもらいましょうか。相葉京子さん…」
『第3会議室』の扉がゆっくりと開き、相葉が入室する。
「あ、あの、相葉京子と言います。よ、よ、よろしくお願いします!!」
オドオドした様子を見せながらも、大きくお辞儀をして挨拶をする。体の震えからもかなり緊張していることがわかる相葉に俺は一言を声をかける。
「心配するな、大丈夫だ」
「赤木くん…」
すると生徒会長は相葉に一言声をかけて、再び学級裁判が始まる。
「では、証人である相葉京子、証言を……」
「あ、はい!!」
ここでの相葉の証言は俺たちにとって1番の切り札になる。Bクラスが何も用意していなければ、この勝負、大いにCクラスが有利になるだろう。
「わ、私が二人を見たのはコンビニ付近です。最初は少し揉めているなぁ〜見ていたのですけど、と、途中で!!コンビニの通り道の薄暗い道に向かっていったので、そ、その〜〜ちょっと興味が溢れちゃって……こっそりついて行ったんです!!」
少し発言が強いがその言葉を聞き、京介は動揺を見せた。決して、見ただけでは気づかないが、用心深く見ると、わずかな汗の溢れ方や、拳の握る力が強くなったり、動揺しているのがわかった。
「そしたら、突然、大声が聞こえて、近く寄って確認したんです。そしたら二人が喧嘩しているのを見て…わたしわたし……怖くて、怖くて逃げ出したんです!!」
「だから、なんです?今の証言にいったい何の意味があるのかな?」
少し不機嫌な様子が垣間見える東条綾音、確実に追い込んでいる証拠だ。だが、その東条の表情すら、少し違和感を覚えた。
「話は最後まで聞きなさい。相葉さん、まだあるわよね?」
「あ、はい……」
すると、俺はすぐにモニターにある写真を映し出した。
「これはいったい…」
Bクラスの生徒は写真を見て驚きの表情をあらわにする。
モニターに映し出された一枚の写真。それはあの事件の現場の写真だった。
「この写真は事件当日の現場を写した写真です。そして見ての通り、この写真には一號蓮也と有馬京介がしっかりと写っています」
「け、けど、それが何!!その写真一枚で何が証明できるわけ?」
確かに、この写真だけじゃあ、ただ現場の
そのモニターに映っている時間表記だ。
「この写真で注目すべきところは時間です」
「時間?」
「そう時間よ、生徒会長、今回の事件。推定で何時行われていたのか、わかっていますか?」
「ああ、大方の時間はわかっている。事件当日、二人が現場に着いたのは時間にして17時30分ごろ、そして終わり時間は17時40分ごろだと判断されている。その間の時間は約10分、つまり今回の加害者と被害者が現場にいた時間は10分程度ということだ」
「そう、そしてこの写真をもう一度見てください。この写真には時計が写っていますよね?その時間を見てください」
「なるほどな…」
生徒会長はすぐに気づいたのか、声を漏らす。
「この写真に写っている時間は17時39分、そしてこの二人の現場姿を見る限り、まだ喧嘩すらしてない状況、つまり、このたった数分であんな大怪我を負うはずがない。そう、自分で自作自演をしない限りね」
ここにきての北条の発言は間違いなく、Cクラスを優位に立たせた。
だが、そう上手くいかないのもまた現実……。
その発言を聞くと東条はニヤリと笑い、巻き返すかのように強く発言を始めた。
「璃ちゃんの言いたことはよくわかるよ。でもね、この写真だけじゃ、証拠としては不十分だよね」
「どういうことかしら?」
「確かに、10分という短い時間の中、この写真はすごく有効的な切り札になるよね。けどそれって、事件が起きて、それが終わるまでの時間が約10分しかなかった場合の話だよね?」
「東条さん、今回事前に提示された情報の中で、この時間は信憑性があると判断されて、提示された情報よ。それを疑うのなら、何も信じることができないと思うのだけど……」
「確かにそうの通りだね。でも私たちにはあるんだよね。今回の事件、10分以上この二人が揉めていた証拠がね」
「え……」
東条の発言はあまりにも衝撃的だった。
「それがこれです。真也くん」
「はい…」
モニターの画面が切り替わり、映し出されたのは事件当日の監視カメラのデータだった。さらにモニターにはしっかりと、現在時刻も映されていた。
「ここは…」
「あの現場で一番近い監視カメラ、そしてこの監視カメラには一號くんと京介くんがしっかりと映っているんですよ」
しばらく、モニターを見ていると、一號と京介が現場に到着した時間、17時30分になる。そこから、時間が経過し、10分後、いまだに姿を見せず、そこから15分後、一號くんが姿を現し、その5分後、ボロボロな姿の京介くんが現れた。
「こ、これは!?」
「そう、現場にいた時間は10分?いいえ違う、事実として二人は15分も現場にいた、つまり、その写真一枚じゃあ、一號くんが一発殴っただけだと証明することはできないのよ」
「………」
やはり、しっかりと切り札を隠し持っていたな。だが、これで状況が変わったかと言われれば、変わったわけではない。ただ、もとの状態に戻っただけだ。
問題は、今の俺たちにはもう切り札がないということだ。現場を写した写真という切り札は監視カメラのデータで
「おい…」
俺は北条の頬を軽く摘んだ。
「ほにゃ〜〜〜な、なにするのよ!!」
「まだ、終わってないぞ、北条」
「へぇ?」
腑抜けた顔、勝ったと油断した北条の弱さが、仇になったが、決して無駄ではない。
「生徒会長…」
「なんだ?」
「この状況からして、まだ判決はできないと思います。俺は、3回目の学級裁判を行うべきだと、考えます…どうでしょうか?」
「な、なんだと!!なにを言っている、もう結果は見えただろ!!」
ここに来てBクラスの真也が反論する。
「Cクラスにもはや、言い逃れできるすべはない!!大人しく、負けを認めろ!!」
「確かに、Bクラスのさっきの証拠で形勢は元に戻った、だが戻っただけだ。つまり、状況はまだ最初の状態から変わっていないということ、そんなこともわからないのか?」
「な、貴様ぁぁぁ!!」
「真也!!!!」
東条が真也の名前を呼び捨てで呼ぶ。
「はい!!」
「黙りなさい」
真也を睨みつける東条綾音。その瞳に睨みつけられた真也は怯んだ。
「……は、はぃ」
真也はそのまま黙り込み、後ろに下がった。
「確かに、今の状況ではただ最初に戻っただけ……。とてもじゃないが判決を下すことはできない。Bクラス、Cクラス、他に証拠、証言はあるか?」
「あ、ありません」
「こちらもありません」
Bクラス、Cクラスの両者が「ありません」と発言した。
「ふん。では今の状況では判決を下すのは少々難しいと判断し…2回目の学級裁判はここまでとする。よって3回目の学級裁判は明後日に行い、その日の証拠が不十分だろうと判決を下すものとする。以上だ……」
生徒会長の言葉で2回目の学級裁判が終わる。
お互いの拮抗な戦いに終止符がつかないまま、学級裁判は3回目に突入した。
ついに学級裁判編はクライマックスへと突入する。
少しでも『面白い』『続きが気になる』と思ったら『☆☆☆』評価お願いします!!
ご応援のほどお願いします。
ーーーーーーーーーー
『公開情報』
特になし
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます