第15話 北条璃の弱音
無事に切り札を手に入れた俺は、帰り道、相葉と一緒に帰り道を歩いていた。特にこれといって一緒に歩いている理由はないが、個人的に相葉には興味があった。
相葉の才能。
俺はどうしてもそれが気になった。別に調べれば、情報が出てくるだろうが、こういうのは語ってこそ意味がと言うもの。語りなしでは友情は生まれないって俺の名言集にもある……。
「相葉はどうして、この高校を受験したんだ?」
「え…えぇ!!私に聞いているんですか?」
オドオドしながら、目線を左右上下にぶれ、動揺しながら、聞いてくる。
本当に大丈夫だろうか。
ほんの少し、一緒にいるだけでわかる。相葉は間違いなく、正真正銘のコミュ障だ。きっと俺はこれ以上のコミュ障を見ることはないと確信できるほどに……。
「相葉以外いないだろ?」
「あ、そ、そうですよね。はい…」
「で、なんで受験したの?」
「そ、それはですね…その〜〜笑いませんか?」
「笑わない、笑わないからさ」
「……実は、憧れたからなんです!!」
突然、強い発声で相葉の気持ちを叫ぶ。
「だって、あの天竺高等学校ですよ!!あの天才が集まる名門校!!きっと入学できたら、イケイケの自信溢れる人間になれるはず!!って誰だって一度は思うはずです!!でも……」
最初はイキイキと語っていた相葉、徐々にテンションが下がっていく。
「だ、大丈夫?」
「だって、あの名門校ですよ?自分も変われるって思っちゃうじゃないですか…けど、現実は本当に厳しいです。結局は変われない。環境が変わっても自分自身は…」
何やら、勝手にテンションを上げて自分で下げている相葉。どうやら、彼女も彼女なりに不安を抱えているらしい。だが、俺は実にいいタイミングだと思った。
「そんなこと言うなよ、相葉。それに明日、相葉は生まれ変わる」
「え……私が?」
「ああ、明日は2回目の学級裁判、そして相葉はその舞台に立つ。これって変われるチャンスに他ならないんじゃないか?」
「………確かに!!赤木くんの言う通りだぁぁ!!」
「だろう。だから、きっと変われるよ」
「はわはわはわ、私……変われるかもしれない!!」
希望を抱いたような瞳を輝かせ、両手を上げて、喜ぶ相葉の姿はとても純粋な一人の女子高生に見えた。
やる気が出たことはいいことだ。あとは、早く、北条に情報の共有をしておかないとな。
「じゃあ、明日!!」
「あ、はい!!また…あ、明日…」
寮の分かれ道で俺と相葉は別れた。
相葉と別れ、帰りの道を歩いていると、誰もいない道中でポツリと置いてあるベンチに見覚えのある女子高生が座って本を読んでいた。
「ずっと待ってたのか?」
「細かく言うのなら、30分前から待っていたわ」
ベンチに座っていたのは北条だった。
まぁ、絶対に来るだろうと思っていたから、別に驚くこともない。ただ、30分前というのが気になった。
「で、どうだったの?赤木くん…」
「それはもうバッチリよ。さらに有益な情報として学級裁判に例のアカウントの主も来てもらえることになった」
「そうなの。それは大きな成果ね」
とても冷静な北条の姿に少し、違和感を覚えた。
何か、おかしい。何か、なんだ?このとてつもない違和感は……。
「あまり、驚かないんだな」
「…そう?こう見えてもかなり驚いているわよ?」
「そうは見えないけど…」
「それは、赤木くんの観察能力がないだけじゃない?」
「……そうかな?」
「それよりも、早速、情報共有をしましょう。いくわよ」
北条はベンチから立ち上がり、男子寮へと足を向ける。
「一様、聞くけど…どこに?」
「どこって、赤木くんの部屋に決まっているでしょ?」
「あ、そうですよね」
北条は男子と二人っきりで平気なのだろうか。俺は全くもって平気ではない。正直、一緒にいるだけで、心臓バクバク。生きている心地がしないというのに。もし、何も感じていないのなら、羨ましい限りだ。
なんの迷いも動揺もなく、北条は俺の部屋に入り、昨日と同じようにココアを頼んだ。
本当に遠慮がないんだな。
「何?ジロジロ見て…」
おっと!つい、目線が感情に現れてしまった。気をつけないと。
「いや、遠慮がないなと、思っただけだよ」
「なぜ、赤木くんに遠慮しないといけないの?」
まるで当たり前のような表情で平然と煽りを誘発する言葉を口にした。
きっと、俺以外ならブチ切れているだろうけど、俺は心が広いから、優しく包み込むように受け止める。
俺って偉い……。
「はぁ、そんなんじゃ、友達できないよ?」
「友達なんて必要ないわ、それより、さっさと情報共有を済ませましょう」
「はいはい、そうですね…」
2回目の情報共有が始まった。
明日が2回目の学級裁判、ここでの情報共有はとても重要になる。ここで、余すことなく情報を共有し、確認する。
「まず、撮られた写真だが、しっかりと確認した。アカウント主も間違いなく、相葉京子であることもな」
「なるほど、相葉さんね…」
「ああ、これで問題ないだろ?」
「ええ、文句のつけようがない完璧なこなしよ。褒めてあげる」
なぜ、こうも上から目線なのか。俺じゃなきゃ、今頃襲われてるぞ。
「北条はどうだったんだ?切り札になるかもしれない何か、は見つかったのか?」
「そうね。正直にいうのなら、残念ながら、見つからなかったわ」
少し悔しそうな表情を見せ、歯を食いしばっていた。
何があったか、詳しく聞くつもりはないが、あの表情、予想にしなかったことでも起きたのかもしれない。
けど、2回目の学級裁判は明日、これは変わりようのない事実。
「なら、この限られた手札で乗り越えるしかないな」
「ええ、そうね」
今のところ、北条に迷いは見えない。
ただ、1回目の学級裁判みたいにほぼダンマリみたいな状態にならないか心配だ。特に立会人は生徒会長だ。なる可能性は大いにある。
「まぁ、情報共有はここまでにして、少し話そうぜ」
「はぁ?なんで赤木くんと話さないといけないの?もう話すこともないし、帰るわ。情報の共有も終わったし…」
北条は帰ろうと立ち上がろうとした時、俺はそれを止めるように右手を押さえつけ、ベットに押し倒す。
「け、警察を呼ぶわよ…」
少しだけ声が震えていた。いくら強気であろうと女は女だ。怖がらないわけがない。ただ、俺は今のうちに釘を刺しておきたいんだ。これからのためにも……。
「警察を呼ばれるのだけは勘弁だけど、安心しろ、襲うことはない」
「こ、この状況でよ、よく言える…わね」
「俺はこう見えても大胆でね。それに前みたいにダンマリも困るし……」
「赤木くんは心配しているの?」
「ああ、すごくね。だって北条は生徒会長のことを怖がっているけど、それと同じぐらい、東条さんのことも怖がっているだろ?流石に心配にもなるでしょ?」
「………」
北条は俺から目を逸らせ、黙り込む。図星をつかれたようだ。だが、ここで問い詰めなければ、同じことを繰り返す、それが人間という生き物だ。辛いことには目を逸らし、都合のいいことだけを視界に写し、受け入れる。何とも滑稽なご都合主義だ。
「こっちを見ろ、北条。お前は今、現実から逃げているだけだ。見たくないものから目を逸らし、都合のいいことだけを見る。それほど愚かなことはないと、賢い北条だってわかっているはずだ……」
「………」
「明日は2回目の学級裁判だ。確かに手札のある方が有利になるのが世のことわりだが、それ以上に気持ちが負ければ、勝てる勝負も勝てなくなる。自分自身の強さと弱さを受け入れろ、北条……今この時、弱さを克服するチャンスだぞ」
北条の顎を掴み、無理矢理に目線を合わせる。少し強引かもしれないが、ここで俺は躊躇なく釘を打った。ここで嫌われようと正直、別にいいと思った。だって、ここで北条が逃げれば、きっと2度と、あの恐怖のしがらみから逃れられなくなるから。
「赤木くんって本当に……ムカつくわね」
「だから?」
「私だって、このままじゃダメなことぐらいわかってる。でも、赤木くんだって知っているはずよ、染みついた恐怖はそう簡単には拭えない。カビと一緒よ。こびり付いたカビは拭き取ったとしてもすぐに湧いてくる」
強がりな声、泣き出しそうな声でもあったが、今までの北条とは思えない弱々しい声、表情だった。まるで内に秘める思いを吐き出すかのよう。
俺はまるで北条の弱い部分を直接覗き込んでいるような感覚がじわじわと感じていた。
「でも、でも勘違いしないで、私は逃げない、逸らさない!!必ず克服する。私は……私は……私はぁぁ!!そのためにこの学校に入学したんだから!!だ、だから、あなたはそれを見届けていなさい!」
心の声をそのまま聞いた気がした。北条の内に秘める思い、隠していた弱い部分、その一部を俺は見た。
俺はすぐに立ち上がり、北条から離れる。
「少し、北条のことがわかった気がするよ」
「赤木くん、あなた……」
「スッキリしただろう?少しは……」
「ええ…少しね」
こびり付いた恐怖心はそう簡単に拭えない。ただ、きっかけを作ることはできる。そのきっかけをどう使い、利用するかは北条次第だ。
「さてと、まだ夜も長いし、もう少し語ろうぜ」
「……ほんの少しだけよ」
「おっ、言ったな!!よし!!」
これで準備は整った。
まだ、不安はあるが、きっと北条なら大丈夫だろう。心配要素も大方、片付いた。あとは、裏で傍観しているやつを表舞台に引き下ろすだけ。
そのまま、ほんの30分、学級裁判とは関係のない雑談を交わし、解散した。
そして次の日、ついに待ち望んだ2回目の学級裁判の日が訪れ、再びCクラスとBクラスの対決が始まる。
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