第17話 赤木奏馬はちょっとだけ本気
2回目の学級裁判が終えた俺たち、一號は前と同じようにすぐに『第3会議室』から出ていった。Bクラスも前のように絡んでくることもなかった。
残った俺と北条、相葉は現場に行き、そこで話し合うことになった。
「す、すいません!!役立たずで本当にすいません!!」
「と、突然、どうした?」
「そうよ。むしろよくやったわ、相葉さん」
「へぇ?」
どうやら、相葉は自分がどれだけ活躍したのか、理解していないようだ。
「いいか、相葉、2回目の学級裁判…勝つことはできなかったけど、引き伸ばすことには成功した。それは相葉のおかげなんだよ」
「そうよ、あの学級裁判で、Bクラスは大きな切り札を切った。もし、あの写真の証拠がなければ、まず私たちは負けていたでしょう」
「そういうことだ」
「私…役に立てたんですね!!」
手を広げながら、大きく飛び跳ねる相葉。「やったぁ!!やったぁ!!」っと大声で叫ぶ。
「けど、所詮は引き伸ばしよ、残り今日合わせて2日しか時間がない以上、私たちが何をすべきなのかを整理しないと…」
確かに、時間が限られている以上、やるべきことは明確にしておいて方がいい。でも、正直、この残りの時間で何ができるかと言われれば……。
「このまま、じゃあ、負けるかもな〜〜」
俺は無意識にポロッと口を滑らす。
「赤木くん、あまりそういうネガティブな発言はやめなさい。考えるのよ」
「ああ、そうだな。悪かった…」
この反応から見るに北条もまだ考え中だろう。
俺は現場全体を見渡す。この場所に監視カメラはなく、そして光の光量も不十分で薄気味悪い。
なぜ、今回の首謀者はここを選んだ?監視カメラがないから?
「提案なのだけど…」
北条が口を開く。
「今日は帰りましょう。今、こうして考えても私たちがやるべきことが思いつくとは思えない……」
「そうだな。今日はゆっくりしよう」
「そ、そうですね!!」
このままじゃあ、負ける。負けるのは俺個人としては別にいい。ただ、ここで一號蓮也を失うのはCクラスにとって大きなハンデを負うことになる。それだけはなんとしても避けたい。
《少しだけ本気を出すしかない》。
そのまま、俺たちは解散し、明日の放課後、カフェで打ち合わせることを約束した。
ーBクラスー
2回目の学級裁判が終わった後、Bクラスの教室へ向かった。
「面白くなってきたよね」
「しかし、このままでは負ける可能性があります、1回目の時は有利だったのに…」
真也は心配そうな表情をずっと見せている。
「真也、世の中において、絶対な勝利なんてあり得ないの。その慢心は君自身を滅ぼすよ?」
「す、すいません」
「おいおい、計画よりずっと面白くなってんじゃねぇかよ〜〜綾音」
二人の会話に割り込む一人の男子生徒。自信溢れる態度に、荒ぶる口調、まるで一匹狼を思わせる。
「
「へぇ〜〜綾音がねぇ。つまりじゃあやっぱりいるんだな。Cクラスにもキレものが…」
「うん。でも誰がCクラスを指揮しているのか、まだちょっとわかんないんだよね」
「それりゃあ〜〜普通に考えるなら北条だろ?」
「からかわないで、璃ちゃんがそんなことできるわけないでしょ?」
まるで当たり前かのように発言する綾音に一条隆元は違和感を覚える。
「おい、綾音。人は成長する生き物だ。それは知っているよな?」
「それは当たり前でしょ。馬鹿にしないで」
「じゃあ、北条がそんなことできるわけがないって考えはどうして出るんだ?」
「そ、それは、私は今までの璃ちゃんを見てきてる。この学校でほんの2ヶ月で変わるなんて現実的じゃない!!普通に考えれば……」
「それだよ。ほんの2ヶ月だが、その2ヶ月は人によって認識が違う。いいか、お前は確かに賢いし、人を使うのもうまい。でもその思い込みだけは捨てろ。じゃないといずれ、敵に足元をすくわれるぞ」
「なぁ!?一条隆元くんん、いくらあなたでも…」
東条は怒りをあらわにするもそんなことも気にせず一条隆元は背中を向く。
「じゃあ、俺はもう行くわ。せいぜい頑張れよ。学級裁判……もし負けたら、わかってるよな?綾音」
オオカミのような瞳で綾音を睨みつける一条隆元。綾音は怯むことなく、睨みかし、威勢を見せる。
「舐めないでよ。私が璃ちゃんに負けるなんてあり得ない」
「そうかよ…」
不敵な笑みを浮かべながら、その場から去っていった。
「だ、大丈夫ですか?」
「はぁ〜彼と話すと疲れるよ」
私が負けるなんて絶対にあり得ない。あり得ない。あり得ない。あり得ない。あんな出来損ないなんかに負けるなんて、私のプライドが許さない。
けど、今の状況だと、確かに負ける可能性があるのは事実。1回目の時は優勢だったのに、今日で一気に対等にまで持ち込まれた。これは油断した私の敗因だ。
「絶対に勝つ…」
とにかく、明後日に向けて、新しい切り札を用意しないと。
「真也くん…」
「あ、はい!!」
「今日はゆっくり、寝なさい」
「はい、わかりました」
真也が去っていき、綾音も寮に戻ろとした時、一人の人影が自分の前に現れた。
「……!?誰!!」
黒い服にフードで顔を隠し、体格からして男性だということはわかるけど……。綾音はすぐに戦闘体勢に入り、警戒する。
「なるほど、やっぱりそういうことか…東条綾音、君にひとつ聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「君の裏にいる、もう一人のリーダーは誰だ?」
「もう一人のリーダー?それって…」
まさか、勘付かれている?いや、そんなわけがない。私たちBクラスの情報封鎖は完璧だった。誰も知り得るはずがない、それこそBクラスの生徒でもない限り……は。いや、まさかぁ!?
「誤魔化しても無駄だ。必ずいるはずだ、Bクラスの潜むもう一人にリーダーが」
「そ、そんなわけないよ。そもそも、Bクラスにリーダーなんてものは仮置きにすぎない。Bクラスは皆平等…私たちはみんなで上を目指すクラスなのよ」
「ふん。嘘をつくのがうまいな。まぁいい、東条綾音の表情を見て確信に至った。ありがとう、礼を言わせてもらうよ」
「なんですって!!」
「じゃあな…」
「ちょっと!!」
逃げる謎の相手を追いかけようとするが、相手の方が逃げ足が早く、すぐに見失った。
「一体、誰だったの……」
東条綾音は不安要素を抱えたまま、明日を迎えた。
ーとある倉庫裏ー
「はぁはぁはぁはぁ、ふぅ〜〜疲れた……」
思ったより、顔に出るタイプだったんだな、東条さんって……。
俺は少し揺さぶりをかけるために東条さんに独断で接触した。
きっと北条に言ったら、怒られるんだろうな。
「でも、収穫は大きかった…」
こう見えても、人間観察には自信がある。
東条の雰囲気、足の動きから手の動き、目の動き、体勢、汗のかき方、人というのはあらゆる部位で過剰に反応する。いくら、表情で誤魔化そうと体や反射神経は意外と素直なのだ。
「それに、あの表情……」
東条の表情や動きで間違いなく、もう一人リーダーがいることがわかった。これはすごく大きな情報だ。それに、あの焦り方、相当…いや、予想以上に追い詰められていることがわかる。
「絶対に引きずり出してやるからな……っとその前に、学級裁判をなんとかしないといけないんだよな」
まぁ、正直、この学級裁判は3回目を迎えると同時にCクラスが勝利する。もしくは迎える前に勝利するはずだ。だってタネは撒いたからな。
相葉京子が……。
相葉京子、彼女の才能がやくに立つ時がきたんだ。
ー相葉京子ー
私は変わりたい、変わりたい、変わりたい、変わりたい、変わりたい、変わりたい。その願いに偽りはない。
だって私ってこんな性格だから、変わる努力をしないとみんなのやくに立てない。だけど、赤木くんだけは、気づいてくれていた。いや、気づかれていた。不思議な、不思議な赤木くん。
とても異質な赤木くん。
最初会った時は、怖い人だなって印象で、でも話していくうちに優しい人なんだなって思えて、そしてそれ以上にどうして赤木くんはこんなにも人に対して冷たくできるのか、それがどうしても気になった。だから、私は赤木くんの後ろをついて行った。どうしても赤木くんのことを知りたかった。
そしてそんな赤木くんにとある頼み事をされた。初めて友達に頼られた。これほど嬉しいことはない。だから私は全力で頑張ることにした。だって友達の頼みだから。
「赤木くんの頼み、友達の頼み……うん!!私!!頑張るから!!」
相葉は夜を照らす月に向かって、拳を勢いよく上げて意気込むのであった。
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