第4話 ペーパーテスト②
上からの威勢の態度を示す北条さん。
それほどまでに自分のほうが上だと、自信があるのだろう。
「北条さんも違和感に気付いていると思うけど、今回のペーパーテストは明らかに不自然なタイミングでの知らせだった」
「そうね。それに関しては共感できるわ。けど、それと私の成績のなんの関係があるの?」
「まぁまぁ、焦らない。この不自然なまでのタイミングでのペーパーテスト、これは言うなれば、俺たち1年生を試しているんだ。「君たちはこのテストをのりこえられるか」ってね。そして今回、このペーパーテストには明かされていないルールがある」
「明かされていないルール?」
「そう、それが「50点以下かつクラス内最下位の者を退学とする」という内容だった」
「ちょっと待って、一つ質問させて、それは本当の事なの?……とてもじゃないけど、あなたの言葉に信憑性が感じられない」
やはり、そうだよな。
まだ、信頼関係も築けていない。
それなのに、突然、そんなこと言われても、信じられるはずない。
だが、今回は信じてもらわないと困る。
「今回のこの情報は担任の菊池先生から提供されたものだ。北条さんも見ただろ?おれと菊池先生が一緒についていくところを…つまり、その時、俺はこの情報を渡された」
「たしかに、あなたと菊池先生が一緒についてくところを見たわ。……わかった。今は信じてあげる。けど、今の話を聞く限り、50点以上なんて、簡単に取れる。退学者はさすがにでないと思うのだけど…」
「北条さん、君は一つ見落としをしている。俺たちはまだこの学校の仕組みを完全に理解しているわけではない。だって入学してまだ1ヶ月、知らないことが多いのは当然だ。そして、今もっともCクラスに欠けている能力、それは危機感知能力」
「なるほど。確かにそうかもしれないわ」
突然、真剣な顔つきを見せる北条さん。
今の会話で俺の言いたいことを理解したのだ。
恐ろしいまでの理解能力、そして情報収集能力。
さすが、天才が集う名門校。
だが……。
「でも、それはCクラスの問題であって、私の個人成績には関係ないことよ」
頭が固い、発想力がない、想像力がない。
北条璃は理解する脳を持っていても、それを考えを発展させる能力が圧倒的にかけている。
「いいや、よく考えてみろ。もしCクラスに退学者が出たする。さてこのあとどうなるでしょうか?」
「……特に何もないはずでしょ?」
「じゃあ、北条さんはなんで「何もない」と答えを出した?」
「それは……それが自然だからよ」
「なぜ、自然なんだ?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる、北条さん。
そのまま俯きながら考えこんでしまった。
「今の北条さんの回答はすべて、「これが当たり前」という考えによって、生まれた
身勝手な思考だ。考えてみるんだ、もしCクラスに退学者がでれば、もしかしたら、そのクラス全員の成績を下げるかもしれない。そんな風にあらゆる可能性を考えれば、北条さんの成績にもしかしたら、傷がつくかもしれないだろう?」
「そんなのただの可能性であって、全くもって根拠のない話よ」
「ああ、北条さんの言う通り、これはあくまで可能性の話だ。でも、その可能性を絶対にあり得ないと切り捨てるのも、また違うだろう?」
納得してなさそうな雰囲気を出す北条さん。
可能性、可能性って言われたらもはや全てがあり得てしまう。
今、俺は圧倒的理不尽を押し付けている。
北条、君は俺のこの発言に対してどう答えを出す?
期待を裏切らないでくれよ
「……はぁ、あなたの言い分はわかったわ。なら、その可能性を考慮して私は何をすればいいの?赤木くん、ただ情報共有したくて、私を呼んだわけじゃないんでしょ?」
「…その話は、杏奈さんが来たときに話すよ」
俺と北条さんは飲み物を口にしながら、杏奈さんを待った。
ほんの数分後、思ったよりも早く、喫茶店に訪れ、こちらに気づく、満遍な笑顔でこちらに手を振る。
俺も手を振り返すと北条さんがこちらを睨みつける。
「な、なに?」
「赤木くんってもしかして、結構人と話すの得意な方?」
「そんなことはないと思うけど、むしろ中学生の頃は苦手だったし…」
「そうなの…」
「ごめ〜ん!!待たせちゃったよね?」
「全然、大丈夫だよ。さぁこっちに座って…」
「あ、ありがとう。奏馬くん」
俺は席を誘導し、杏奈さんは椅子に座る。
杏奈さんは「何頼もうかな〜」と楽しそうな笑顔でメニューを選ぶ。
「今日は俺が奢るから、好きなだけ頼んでいいよ」
「え!?悪いよ」
「いいんだ。無理して付き合わせちゃったからね。どうぞ、好きなだけ頼んでよ」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…」
杏奈さんは北条さんと同じココアとケーキを二つ頼んだ。
少し待つとすぐに頼んだ商品が運ばれた。
これで話す場は整った。
「なに?」
北条さんの口を開いた。
発言した先には……。
「あ、ご、ごめんね。びっくりするぐらい綺麗な顔だったから、つい…」
恥ずかしがりながら、その思いを言葉にした。
「ありがとう。でも今はそんなことを話すために集まっているわけではないわ」
「あ、そうだよね」
「はぁ〜で、赤木くん。早速本題に移ってちょうだい」
「はいはい」
俺は杏奈さんに北条さんと同様、同じ説明をした。
今回のペーパーテストには公開されていない隠しルールがあることを、その情報を、どこから手に入れたのかを、包み隠さず、すべて話した。
「う~ん。つまり、うちのクラスから退学者出したくないって結論でいいのかな?」
「まぁ、そうだね。目的はそれで合ってる」
「わかった。喜んで協力するよ。友達がいなくなるのはとても悲しいことだからね」
さすがと言うべき善良な心。
その笑顔は周りの目線すら集めてしまう。
「それで、私に何をしてほしいの?奏馬くん」
「杏奈さんには、Cクラスのみんなに、勉強することを促してほしいんだ。特に男子をね……」
「そんなことなら、お安い御用だよ。まかせて」
「ありがとう。やっぱり、杏奈さんに情報共有しておいて正解だった」
「そんな~ほめないでよ~~」
そんな二人の会話に北条さんは飲んでいたココアを強め、机に置いた。
「ドンッ!!」っと音と共に視線は自然と北条さんを見つめる。
「北条さん?」
「どうしたの?」っと訴えかけてくるような表情で見つめる杏奈さん。
その笑顔にイラつき、口角が上がりかける。
「まぁまぁ、落ち着いて、北条さん」
「赤木くん。言葉は選んだほうがいいわよ?」
「怖いって……そんなんじゃ、せっかく協力した意味がないだろう?今回の作戦は北条さんが要なんだから」
「…どういうこと?」
目を細めながら、睨みつけ、訴えかけてくる北条さん。
どうやら、自分がどれだけ重要な役割にいるかわかっていないようだ。
「今回、北条さんには勉強会に参加し、みんなに勉強を教えてもらう」
「なっ!?何で私が!!」
「ほら、だって北条さん、頭いいでしょ?それに、勉強会で人が集まれば、教える人がより多く必要になる。つまり、今回のペーパーテストを乗り越えるための要は北条さんになるわけだ」
「ねぇ、一つ聞くけど、何を考えているの?赤木くん」
「……考え?」
「確かに、私も気になるな〜〜あんまり奏馬くんが大胆に行動するイメージがないと言うか、何か企んでいるのかな〜って思っちゃうんだよね」
「なるほど…」
どうやら、今の俺の行動に不自然さを感じているようだ。
まぁ、それもそうか、だって見た目てきににもこんな行動するようには見えないだろうし。
それにしても驚きを隠せないよう、本当に。
女子は勘がいいとは聞くけど、ここまでとは…女子って怖い生き物だな。
とはいえ、そんなことは正味どうでもいいのだが、ここで疑われ続ければ、今後の高校生活の支障になりかねない。
人生の一度っきりの高校生活、こんなペーパーテストなんてさっさと終わらせたい。
「考えるも何も、俺はただCクラスのみんなには退学してほしくないだけだよ」
「本当かしら?」
「ああ、本当だ。嘘はない」
「そう。ならわかった。勉強会に私も参加するわ。でもあくまで私は教えを
「ああ、そこら辺は北条さんの
「うん!!任せて。同じ目的たるもの同士、一緒に〜〜〜がんばろ!!!」
「お〜〜〜〜!!!」
「何やってるのよ、あなたたちは……はぁ〜〜」
「ここは普通、叫ぶところだろ」
「ここはお店よ。少しは場所をわきまえなさい。子供じゃないんだから」
「ご、ごめんなさい。北条さん…」
潤った瞳で北条さんを見つめる杏奈。
そんな姿を見た周りの生徒は目を奪われる。
「杏奈さんって、本当に表情豊かだな、誰かさんと違って…」
「赤木くん、なんか言った?」
「いえ、何も…」
その後、喫茶店の会計を済ませ、俺たちは解散した。
これで準備は整ったと言っていいだろう。
あとは1週間後のペーパーテストに備えるだけだ。
けど、一つだけ引っかかることがある。
それは菊池先生の言動だ。
どうして俺に情報を渡したのかそれがどうしても不自然に感じる。
「菊池先生が一体何を企んでいるのか、全く見えてこない。はぁ〜全く、面倒な担任を引き当ててしまった…」
まぁ、今考えても仕方がない。
情報がなければ、それはただの被害妄想になってしまう。
今はただ、ペーパーテストを乗り越えることに集中しよう。
だって時間は勝手に過ぎるから。
そして次の日の朝、杏奈さんが行動に移した。
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