第二章 ペーパーテスト
第3話 ペーパーテスト①
菊池先生の後ろについて行った。
そして菊池先生の足が止まる。
場所は「教育指導室」だった。
「え…」
「入れ、赤木」
「職員室じゃないんですけど…」
「いいから入れ…」
「はい…」
目つきが怖かったので、大人しく入ることにした。
確か、教育指導室って、問題を起こした生徒が入る教室だよな。
俺って何かしたっけ?
考える限り、ないと思うけど……。
「この部屋に、監視カメラはない。つまり、ここなら何もしても、出ない限り、気づかれることはない」
菊池先生が突然、怖いことを言い出した。
監視カメラ、確かに見渡す限り、それらしき物は設置されていない。
「で、一体に何のようですか?菊池先生」
「君は、特別一般枠で合格しているよね?」
「………」
「特別一般枠は一般人でも最先端の教育が受けられるように去年から実施された制度だ、表向きはな。この制度の役割は、どうしても一般にこの学校に入学できない者を入学できるようにする制度が本来の役割であり、一般人が入学することはできない。今年の特別一般枠の合格者は3名、そのうち1人、一般人が紛れていた。そう、赤木奏馬くん、君だ。さて、ここまで何か言いたいことはあるかい?」
特別一般枠…何の話だ?
そんな制度があるのか?親が勝手に決めていったから、そこら辺、俺は全然知らないんだよな。
けど、菊池先生の言い分では、この特別一般枠はあくまで形だけで本来なら入学できない生徒を入学させるための制度ということだ。
さすが、名門校、何としても優秀な人材が欲しいのだろう。
そしてその特別一般枠の合格者の一人が俺と……意味がわからん。
「特には何も、それに菊池先生と話すことは何もありません。帰ってもいいですか?」
「ちょっと待て、私は君にひとつ頼み事があるんだ」
「…頼み事?」
「正直、私は赤木宗馬に興味はない。どんな過去をもっていようと…」
「菊池先生、言葉には気をつけた方がいいですよ」
「ああ、すまない。ついね。で、頼み事なんだけど…今回のペーパーテストをみんなが乗り越えられるように手伝いをしてほしんだ」
意外な頼み事だった。
しかし、ペーパーテストは成績には反映されないはずだ。
なぜ、そんなテストに「乗り越える」なんて、言葉を使うんだ?
「今回のペーパーテストは成績に反映されないと聞いています」
「ああ、だが、私の発言から分かるように、今回のペーパーテストは前例がない。つまり今年、初めて実施されるわけ、おかしいと思わないか?」
「それは確かにそうですが、だから今回のペーパーテストを疑えと?」
「そうだ。今回のペーパーテストは言うなれば、今の一年生の実力を見るため、そして誰が一番退学者になりやすいかを見極めるため、これが学校側の視点だ。つまり、、碌な事がないということだ」
「………なるほど、今回のペーパーテストは退学者が出るルールがあるんですね」
「ああ、そうだ。そしてそれを知る事ができるのは今、ここにいる君だけだ。赤木宗馬」
これは脅しと取られていいのだろうか?
いや、そもそもこんなことを頼むのは俺が特別一般枠として菊池先生は期待しているからか?
わからない。不確定な情報が多すぎる。
ここは頼み事を受けるべきか……。
「いいでしょう。その頼み事を受けます」
「そうか、ありがとう。まぁ、どちらにせよ、君は受けるハメになっていたけどね」
やっぱり、まだ脅す手口が残っていたか。
だけど、俺だってただじゃあ、頼み事は受けない。
「で、その退学者を出すルールはなんだ」
「口調が少し荒くなっているよ、赤木宗馬」
「うるさいな、さっさと話せ」
「今回のペーパーテストのルールに、50点以下かつクラス順位最下位のものを退学とする、というルールがある。まぁ普通に勉強していれば、まず退学者ができることはないだろう。だが、君たちのクラスはどうかな?」
不敵な笑みを見せる菊池先生。
完全に喧嘩を打っている目だ。
だが、確かに、普通に勉強していれば、確実に50点以上は取れる。
だが、Cクラスは別だ。
今日の勉強会での話し合いを聞く限り、危うい生徒は何名かいる。
「頼んだよ。赤木宗馬」
「ちょっと待ってください。一つだけ質問があります。そもそもなぜこんな大事なルールが隠されているんですか?これはあまりにも理不尽だ」
「そんなこと私が知るわけがないだろう。上からの命令、私はそれ以外の回答を持ち合わせていない。何、君は今、このルールを知った、ならそのルールをクラスメイトに教えればいい、ただそれだけじゃないか」
「そ、それは…」
「そろそろ、時間だ。赤木宗馬、そろそろ帰った方がいい。確か寮には19時までにいないとダメだろう?」
そのまま俺と菊池先生は「教育指導室」前で別れた。
そのまま寮の部屋に戻る。
そしてそのまま椅子に座り、状況を整理する。
頼み事を引き受けた以上、やるしかない。
「さて、どうした者か…」
菊池先生はルールを教えてやればいいと言ったが、それは一番難しい方法だ。
そもそもそのルールを俺が言って信用するクラスメイトが何人いるだろうか?
五十嵐学なら真剣に聞いてくれるだろうが、他の生徒は?
もしクラスメイト、みんなで押し切られれば、そこまでだ。
「どうやって、自然にみんなを勉強する方向に持っていくか……やっぱり、女子の発言力がほしいな」
何事にも仲間が必要だ。それにできれば、発言力がある生徒がいい。
北条さんはないな。
う〜ん、やっぱり、杏奈が妥当だな。
発言力とその可愛さから男子も仲間につけやすい。
これほど適任な人物はいない。
「よし、明日、話しかけてみるか…」
問題があるとすれば、杏奈が話を聞いてくれるかだな。
もし、話すら聞いてくれなかったら、ここまで。
新しい作戦を考えなくてはいけない。
「まぁ、今日の杏奈を見た限りは大丈夫だと思うけど…」
こうして、明日を迎えた。
いつも通りの教室、みんな笑い合い、
俺と北条さん以外……。
「このままじゃ、本当に一人ぼっちになってしまう…」
「あなた、いつもそんなこと言っているの?もう諦めたら?」
「う、うるさいな…大丈夫だ。まだ、まだ間に合う…」
「………ねぇ、今回のペーパーテスト、あなたはどう思う?」
「え?」
北条さんもこのペーパーテストに違和感を感じているのか。
勘がいいと言うべきのか、北条さんはもしかして、結構、周りの空気を気にする子なのかも。
いや、ちょっと待ってよ。いい作戦を思いついたぞ。
「特に何も、でもどうしてわざわざ、こんなテストをするのかなって疑問には思ってる」
「そう…」
「え、それだけ?」
「なに?まさかまともな返答がもらえるとでも?」
「あ、そうですか…」
北条さんは素直じゃないのか知らないけど、少し辛辣すぎる気がするよ。
さて、早く放課後になってくれないかな。
「何笑ってるの?気持ち悪い…」
「北条さんって
「そう?私の素直さがいけないのかも…」
「素直さって…」
素直すぎる気がするけど……。
それに口から出る言葉が全部悪口だし、だから友達がいないんだろうな。
なら、なんで俺は友達ができないんだ?才能がないからだろうか?
そんなことを考えていたら、気づけば放課後を迎えていた。
「よし……」
俺は席から立ち上がり、ゆっくりと木兎杏奈の元へ向かう。
椅子に座り、女子と楽しく話す杏奈姿、その中に俺は割り込んだ。
「ちょっといいかな?杏奈さん」
俺の投げかけに、周りの女子の目線を集める。
少し冷たい目線が注がれる中、杏奈さんは笑顔で返答した。
「え〜と、奏馬くんだよね。何かようかな?」
「うん。実はちょっとお話したいなって思ってさぁ」
その言葉に女子から「キャーー」と叫び出す。
何やら、盛り上がった様子。
男子たちもまじまじとこちらを見つめていた。
「え〜ちょっと、こ、困るというか。そ、その〜〜」
杏奈はもじもじと足を擦り、頬を染めながら、目線を逸らす。
なんか、変な空気になってないか?
まるで、俺が告白したみたいな空気感……。
「……杏奈さん」
「はいぃ!!」
「北条さんも来るから…」
「へぇ?」
「はぁ!?」
杏奈さんが驚きの声をあげると同時に、椅子から立ち上がり、驚きの声をあげる北条さん。
「じゃあ、近くの喫茶店で待ってるから、じゃあ!!」
俺はそのままその場から離れ、北条さんのそばまで駆け寄る。
「よし、行こうか」
「ちょっと、何を勝手に!!」
「さぁさぁさぁ…」
「なっ!?気安く触らないでよ」
俺は北条さんを無理やり引き連れて、喫茶店に向かった。
「で、どうして私を巻き込むわけ?簡潔に20字以内で答えてくれる?」
「いいじゃないか。友達ができるチャンスかもしれないぞ」
「前にも言ったと思うけど、私に友達は必要ない」
「まぁまぁ、奢るからさ。それに、ちょっと北条さんに話しておきたいこともあったしね」
「話しておきたいこと?あなたと話すことなんてないと思うんだけど…」
「あるある、大いにあるよ。とても重要な、それこそ北条さんの成績にも関わる重要な……」
俺はニヤリと笑いながら、北条さんを見つめる。
ここで帰れるのは非常に困るからな、なんとしても留めないと。
それに個人的に、北条さんには興味があるしね。
「いいわ。聞いてあげる」
「そうこなくっちゃ。けどまずは何か頼もう。せっかく来たんだし…すいませ〜ん!!」
俺はコーヒーとケーキ、北条さんはココアを頼んだ。
そして、頼んだ品が運ばれたところで北条さんは睨みつけ、口を開く。
「じゃあ、話してもらいましょうか。私の成績にも関わる重要な話を……」
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『公開情報』
・今回のペーパーテストにはとあるルールが存在した。
50点以下かつクラス順位最下位のものを退学とする
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