部員の勧誘

 翌日も同様、放課後になると俺は畑里が来るまで教室に残ろうとした。が、今日から出席番号で単純に決められた掃除の班によって教室が掃除されれるため、一時的に廊下に放り出された。

 人が大勢いた教室と違い、まだこの時期の廊下は寒い。少し肩を竦めながら教室側の壁にもたれかかりながら待つことにした。

 学校指定の通学用カバンから暇をつぶそうとおもむろに本を取り出そうとしたとき、昨日聞いた声が少し遠くから聞こえてきた。


「宇和間君、お待たせー。今日もよろしくね」


 そう言い笑顔で話しかけてくる畑里の姿があった。


「………うっす」


 待ってないよ、とかいろいろ話した方がいいのかもしれないが、取り繕うのが面倒であると本能が判断したのかそっけない返事しか出てこなかった。

 昨日と同様1つ上の階へ行き昨日訪ねた教室へ向かう。昨日と違うのは千船と話すのではなく小川を尋ねるはずだった。


「畑里先輩! 今日も会いに来てくれたんですね。昨日は練習着がなくて部活に参加できませんでしたが、今日は大丈夫です!」


 教室に入った瞬間、千舟の畑里に会いたい欲が滲み出た声が聞こえてきた。

 このクラスは掃除の班が決まっていないのか、この教室だけは掃除はしていない。


「そ、そうなんだ。それじゃあ今日から一緒に練習でできるね………」


「一緒に」という言葉に千舟は喜んだのか目を大きくし、2つ握りこぶしを作りながら肩を上げた。


(本当に一緒にできると思ってんのか)


 俺に対しての態度と180度異なることに辟易しつつ、喉まで出かかった言葉を出さずに二人のよりやり取りを眺めていた。


「ところで小川さんはどこにいるのかな?」


 畑里は小首を傾げながら少し甘い声で千舟に尋ねる。


「小川ならあそこにいますよ」


 と、千舟は今から教室から出ていくであろう少女を見て指さした。

 俺は確かに見たことのある顔で小川であると認識しつつも、1年間会っていないのと制服が異なるせいなのか別人のようにも見え、自分が高校2年生であることを改めて認識させられた。


「ありがとう。それじゃまた部活でね」


 畑里は千舟に手を振りながら小川の方へ歩き出す。


「はいっ、部活で待っております!」


(なんだ、そのじゃべり方は………)


 千舟はまた部活でも会ってもよいという了承を得れたことにも歓喜したのか、改まった?しゃべり方になっていた。

 俺たちは教室の前の扉から出る小川を先回りするため後ろの扉から教室を出て、こちらに歩いてくる小川に畑里は声を掛けた。

「あのー、ちょといいかなあ。あたし陸上部の2年なんだけど、小川さんであってる?」

 小川はいきなり話しかけられて戸惑っているのか、怪訝な顔で畑里を見ている。が、俺の顔を見た途端眉を上げ少し驚いたような表情にもなった。


「…………はい。小川ですけど、──宇和間先輩……ですよね……?」


 ところどころ躊躇いながら俺の方を見てかつて先輩であった俺に確認をとる。


「ああ、そうだよ。ちょっと聞きたいことがあって小川のこと千舟から教えてもらったんだ」


 俺は淡々とした口調で、小柄な彼女を少し見下ろしながら話した。

 話しかけたのは畑里であるのにあるのにも関わらず、知り合いである俺の方が話しやすいのか小川の顔はこちらを向いている。カバンの2つの持ち手を右肩にかけ両手で持ち手を軽く握り、状況がか把握できずにいるためか少し間の抜けたような顔をしている。


「……聞きたいことって何ですか?」


「陸部の長距離の女子でうちの高校に来てる人探してるんだけど、小川以外に誰が来てるのかなあって」


「あー、そういうことですか。えーっとですね、………ミキちゃんとカナデちゃんです。…………これって、勧誘ですよね? もしかして先輩、陸上部入ってるんですか?」


 小川は少し考えながら2人の名前を挙げる。そしてこの行為は部活の勧誘であると判断し、俺が陸上部に入っているのかを確認してくる。

 一瞬、俺は畑里を一瞥した。少しばつの悪そうな顔で答える。


「……いやっ、俺は高校では入っていないんだ。この人───畑里に女子の後輩を紹介してくれと頼まれてな」


 俺が部活に入っていないといった瞬間、小川は少し俯いたように感じた。畑里の方を横目で見ながら話していたら、本人が口を出してきた。


「正確にはうちの顧問が、だけど。あたしは畑里渚、よろしくね。小川さんの言う通り今1年史絵の勧誘をしてる途中なの。もしよかったら、小川さんに入ってほしいなって思うんだけど。お願いできないかなあ?」


 畑里は両手を合わせ、少し頭を低くし頼むように話す。


「いいですよ。っていうか元々陸上部入る予定だったので問題ないです」


 俺たちは小川の躊躇ない返答に少し気圧されたが、後につずく理由を聞いて納得した。


「ほんとにー。ありがとう、助かるよ」


 畑里はすぐに笑顔に戻り感謝を伝える。

 いえぇ、と答えながらも小川の口角が少し上がったのがわかった。しかしそのか表情はすぐに戻り、今度は強張ったような顔になる。


「あと聞きたいんですけど、…………清水先輩は入部してますよね?」


 小川はまた躊躇いながら質問してきた。


「あー清水君? 清水君はちゃんと部員だから安心してね!」


 小川は強張った顔からほっとしたような顔になり、肩を少し落とし息も出ないような安堵の溜め息を吐いた。

 畑里は満面の笑みで答えつつ親指を立てた。

 悪気はないであろう畑里の「ちゃんと」という発言に少し胡乱になり、無意識に畑里を見ていた。もしかしたら眉間に皺が寄っていたかもしれないが、幸いにも畑里はこちらを見ていない。


「そうですか、ならカナデちゃんも入部すると思います。清水先輩がいると知ったら、気が気でないと思いますから」


 小川の発言の意味がよくわからなかったのか、畑里の頭に?が見える。

 俺も一瞬戸惑ったが、清水との関係を思い出したら得心がいった。


「カナデちゃんって、立花奏ちゃんのことかなあ? ………昨日見学で来てたんだけど………」


 畑里は思い出すように腕を組み遠くを見ながら話した。


「そうです! 立花です。…………もう見学に行ってたんですね。流石の行動力という感じなんです。」


 小川は立花がすでに仮入部に行っていた事実に驚き今までより力強い声で答えた。が、次には立花の行動に感心するように俯きながら独り言のように話し始めた。そして思い出したかのように顔を畑里に向ける。


「あっ、私も今日は仮入部するつもりなので宜しくお願いします」


「そうなの?、なら今から一緒に行こうよ! ………気になってたんだけど、奏ちゃんって清水君のこと好きなの?」


 畑里は仮入部に来てくれることが嬉しいのかさらに目を細めて笑った。そしてこの会話聞いたら誰もが疑問に思うことを問いかける。


「それは見ていくうちにわかりますよ」


 今までの立花のことを見てきたからなのか、溜め息を吐くように気の抜けた声が漏れた。


「あと、お願いがあるんだけど………。そのお………ミコちゃん?って子にも陸上部に入らないか誘っておいてくれない。初対面のあたしよりも、良く知ってる小川さんの方が誘いやすいと思うの」


 畑里はもう一人の子を誘うのを小川に任せることにした。

 おそらく言っていることは本心であろうと思いつつ、ただ単に面倒くさくなったから任せることにしたのではないかと疑ってしまう。実際俺がそうであるからだ。

 

「わかりました。また、明日にでも話しておきます」


「ありがとう。───それじゃあ行こっか。あっ、宇和間君、今回はありがとう。先生からはあたしから話しておくからもう帰っても大丈夫だよ」


 畑里は俺がいたのを思い出したか弾いたようにに手を挙げこちらにお礼を言い、そのまま全部言い終わるか終わらないうちに小川と一緒に歩きだした。

 小川は俺の横を通り過ぎるところで軽く横目でこちらを見ながら会釈して、畑里の後ろをついて行った。

 取り残された俺は周りが1年生しかいないことに場違い感を思い出し、2人からそこまで離れていない後ろを進み始めた。


(今日別に俺いなくてもよかったくね?!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園ラブコメ(仮) @sukinakyokuha_teo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ