中学時代の後輩

 俺はこの人を見たことがある。だが彼女が俺を覚えている保証はないのでこの話題を話すことはしなかった。


「うん、合ってるよ。悪いな、本当は君が教室に入った時に声を掛けるべきだったんだけど」


 少し申し訳なさそうな顔をして話した。


「ううん、別にいいよ。それじゃあいこっか」


「ああ」


 俺は彼女に次いで教室を出ていった。この学校は4階建ての校舎で、4階が1年、3階が2年、2回が3年の生活スペースになっている。

 俺らは廊下に出て階段を登って行った。


「早く帰りたいから、さっさとすませようぜ」


「それは宇和間君次第だよー。君が全員すぐ見つけ出すことができたら早く帰れるよ。頑張ってね! あたしもできることがあったら手伝うからさ」


 そうこう話しているうちに、1年のクラスの前までやって来た。


(誰か知っている奴はいるかなー)


 そう考えながら歩いているとある教室の中から声が聞こえてきた。


「せんぱーい。宇和間せんぱーい」


「──あー、千船か!」


 声のある方に顔を向けるとそこには中学時代の後輩がこちらに手を振っていた。俺たちは呼ばれるがままその方に進んでいった。


「先輩も城北だったんですねー。俺も同じ高校ですよ」


「ここにいるんだから当たり前だろ」


 俺は千船の言葉に対して普通に返したつもりだったが、彼の顔は少しむっとしていた。


「先輩、当たり前なんてないんですよ。もし俺がとんでもなく方向音痴で本当の高校へ登校できず、ここにいたらどうするんですか! それに何円かけますか!」


「お前全然変わらねーな。そうやってすぐに人の上げ足獲るのやめろよな。あとすぐに金をかけさせようとするな」


 俺の顔が少しにやける。このやり取りにめんどくささを感じつつも、懐かしく思っていた。


「それはいいんですけど、先輩は高校でも陸上部に入ったんですか?」


「いやあ、入ってないけど。もうめんどくさくなってさあ、入らなかったんだよ」


「そうなんですか。僕も長距離しんどかったんで、高校ではどうしようか迷っていたんですよ」


 千船は少し考えこみながら答えた。


「えー、あたしは入ってほしいなあ。今、長距離の部員少ないんだよね。だから1人でも多く入ってくれたらうれしいんだけどなあ……」

 2人で話していたら横から、畑里が会話に入って来た。そして、目を輝かせ、とても物欲しそうな顔で千船の顔を見ていた。

 そういわれた千船は数秒間彼女の顔から眼を離せずにいたが、ふと我に返ると俺に耳打ちをしてきた。

「先輩、この美人はだれですか?! まさか先輩の彼女じゃないですよね?」


「ちげーよ。この人は陸上部で新1年生を勧誘にしに来たんだよ」


「でも先輩は陸上部じゃないですよね、何でここにいるんですか?」


「………あー、まあいろいろあってだな…………」


「まあいいです。俺、陸上部に入ります!」


「…………えっ、ちょっ」


 俺が反応する間もなく、千船は畑里のほうに顔を向けて熱心に話し始めた。


「あのー、おっ、俺、陸上部に入りたいです!」


「ほんとにー! ありがとう。あたしは畑里渚、よろしくね」


 畑里は千舟の両手をつかんでとてもうれしそうに答えた。千舟の顔が赤くなるのが顕著に分かった。

「じ、じ、自分は、千舟誠です。よろっ、よろしくお願いします」


 千舟はかなり挙動不審になりながらも精一杯の気持ちで返事をした。そして満足したような顔で俺の方を見てきた。


(なんでこっち見るんだよ………)


 俺は少し睨みつつも本題を思い出し、千舟に聞いてみることにした。


「俺らの高校からここに来てる女子の長距離を探しているんだが、誰がこの高校に来てるか教えてくれないか」


「えー、俺あんまり知らないんで自力で探してくださいよ」


「お前なー、それぐらいいいだろ知ってる人だけでもいいからさあ」


 千舟は畑里に手を握られたのがよほど嬉しかったのか、握られた手をまじまじ眺めているため、空返事しか返ってこない。


「俺も忙しいんですよー。入部届とか出さないといけないし、それから………」

 

 口をすぼめながら話しているため最後のほうはよく聞き取れなかった。


「まあいいだろ、どうせ今でき………」


「千舟君、お願い! 今、部員が少なくて大変なの。協力してくれると嬉しいんだけど………」


 俺の声にかぶせて畑里が説得し始めた。掌を合わせて、上目遣いで頼んでいる。


「全然いいですよー。畑里先輩の頼みなら喜んで引き受けます」


 食いつきが尋常ではなかった。俺の話は馬の耳に念仏程度だったのにも関わらず、畑里が話し始めた途端目を輝かせ言下に返答した。


「あっ、ありがとう。助かるよ」


これには畑里も少し引いていた。


「さっきも聞いたんだけど、千舟君と同じ高校の長距離の女の子を教えてほしいんだけど」


「……俺は全員がどの高校に行ったか把握してないんですけど、一人なら知ってます。たぶん、小川はうちにいると思います。そんで、小川に聞けば女子全員の行方が分かると思います」


「そうか、あと小川は何組か教えてほしいんだが」


「先輩には言っていないんですけど……、まいいです、小川ならこのクラスでもう帰ったんじゃないんですかね。少なくとも今はここにはいませんよ」


 なんでこんなに俺との態度が違うんだ。俺、こいつになんかしたっけなあ。こいつがこんなに面食いだとは思わなかった。


「ありがとう。…………それじゃあ、また明日にでも来るね」


「はい! 是非来てください。」


 畑里は少し考えたが出直すことにしたらしい。

 千舟は相変わらず言下に答えた。


「畑里先輩、今日って部活やるんですか?」


 俺らが教室から出ていこうとしたら、千舟に呼び止められた。


「うん、あるけど………。千舟君も今日からくる?」


「わかりました! それなら今から入部届だしてきまーす!」


 そう言うと俺らの横を通り過ぎて走っていった。


(中学の時あんなキャラだったか?)


 昔の千舟を思い浮かべていたが、1年も経てば少し位変わるかと思い、帰り始めた。


「はあ……」


「………」


 畑里が聞こえるか聞こえないくらいのため息をついた。少し顔が険しくなったように見えたが、俺は特に気にもせずに歩く。


「明日も放課後時間空いてる?」


 畑里が笑顔で明日も勧誘を手伝ってくれるか確認してきた。


「別に暇だからいいけど、早く終わらしてくれよ」


「ありがとう、早く終わるかどうかは君次第だよ。それじゃあ、あたし行くね。お昼ごはん食べないといけないから」


 畑里はそういうと走っていった。

 俺はその後ろ姿を見ながら歩いて、畑里の人間性の違和感みたいなものを少し感じていた。そのまま家に帰ることにした。




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全然投稿できなくてすみませんでした。いろいろばたばたしていてあまり時間を取れずにいました。毎日投稿するとかほざいてましたが、考え直し、自分に負担がかからないぐらいの容量で執筆しようと思います。何卒宜しくお願い致します。

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