見覚えのある顔
始業式が始まった。
式において嫌なことは何かと問われたら、真っ先に思い浮かぶのは校長先生の話ではないだろうか。あの冗長な話は生徒にとって、もはや先生にとっても苦痛ではないだろうか。
仮にしっかり話を聞いたとしよう。ほとんどの人が式が終わって、いざ教室に戻るときには既に内容を忘れているのではないだろうか。覚えているのはただ話が長かっただけ。これを無駄と言わずしてなんと言う。
教室に帰るまでの会話の一言目を挙げるとこの4つが多い。
「校長の話長かったなー」
「座りすぎて腰が痛いよねー」
「寒すぎて話しどころじゃなかったぜ」
「あのおなら誰がしたんだと思う」
このデータは俺が長年式が終わるごとに聞いてきた経験則である。
この4つ目は特殊条件下でしか起こらないのはお分かりいただけるだろが、そのあとの出来事についても言及したい。
まず、犯人探しが始められる。誰もそんなことを知って得をしないのはわかっていながらも、興味本位で知りたがるのだ。
そして大体の場所がわかり、誰かが一人名を挙げる。そして憶測で決めつけられた人物が女子ならそれ以上誰も探ろうとしない。だが男子の場合はその先へ行き、そいつが陽気な性格だったら揶揄い、物静かな性格だったら陰で笑われることになる。これはしてようとしてなくても一度名が挙がればこの結末になってしまう。
本筋から少し外れたが、結局のところ校長先生、その他もろもろの話は誰も覚えてイなのだ。
そして俺はこの無駄をなくすためにしっかりと英単語長を持ってきていたのだ。こういう上級者はちらほら見かける。俺と同じように単語長を持ってきてり、本や参考書を持ってくるものもいる。但し、先生に見つかっては没収されるので注意が必要である。
よって今行われている校長先生の話もしっかり無駄なく過ごすことができたのである。同じ時間を生きているのになんだろうこの優越感は。
そうこうしているうちに始業式が終わり、教室への帰路についた。今回もしっかりと上から3つの会話は聞くことができたのである。
「あっ、もしかして君ー、今朝遅刻してきた人だろ!」
突拍子もなく明るいというか、騒々しいというか、いつも周りにいられたら落ち着かないような声が飛んできた。
「──えっと…………」
「やっぱそうだよな! めっちゃ面白かったぜ! あれは尊敬の念に値する。………なんだよその顔」
「いやあ、どこの誰とも知らない人から話しかけられたら驚くというか、恐怖を感じるというか…………」
俺は少し訝しげに彼の顔を見た。彼の言葉から察するに俺の顔はいつの間にか引きつっていたらしい。こんなに肩を寄せられ、誰とも知らない顔を近づけられたら誰だってそうなるだろう。男子ならなおさらだ。
「あー、名前ね。俺は桑原孝介。君と同じ5組だぜ! 1年間よろしくう!」
「……俺は宇和間、宇和間弘樹。よろしく。言っておくけどあれは遅刻じゃないからな!」
「宇和間……… あー、今朝先生に呼ばれてたのも君じゃなかったっけ? やっぱり遅刻じゃーん」
「あれは………… 別件で呼ばれただけで、遅刻とはかんけ──」
「まー、そういうことにしといてあげるよ。ほんじゃまた話そうな―」
桑原は言下に返答して、走って先に行ってしまった。
(本当に遅刻じゃないんだけどなー。まあいいいか)
俺の遅刻への返答があからさまに言い訳臭かったのは事実であるし仕方なかったかもしれない。実際そうである以上そう答えるしかないのではあるが。
それから教室に戻り、委員会決めを終え、すぐに放課となった。ちなみに俺は図書委員になった。
普段ならこの後すぐ帰宅したいところではあるが、あいにく前川から頼みを引き受けてしまっているため、帰るにも帰られないのである。
これからのことを指示されていないので、とりあえず自分の席に座って本を読みながら待ってみることにした。前川に指示を仰ごうとしたが、放課と同時にそそくさと教室を出て行ってしまった。
━━━━5分後
本を読んで少し集中しかけていたところに、勢いよく女子生徒が1人入ってきた。
「すいませーん! 宇和間君っていますかー?」
教室に残っていた生徒の全視線が彼女に注ぐ。教室の後ろの隅まで届くような声で尋ねてきた。
そこには容姿端麗、スタイル抜群、身長も165㎝はあるだろうか──というような誰が見ても美人と言うであろう人物が立っていた。
教室の中には談笑しているグループや昼食をとっているグループなどがある。その中で少し騒がしく談笑しているグループの1人が彼女に近寄って行き、そのまま抱き着いていった。
「あー。渚ちゃんじゃん! あたし、今年も同じクラスがよかったよー」
そこへ残りのグループのメンバーも駆けつけ、話し始めた。
「そうだよねー。渚ちゃんがいないと寂しいかも」
「あたしもだよー。本当はみんなと同じクラスがよかったのになあ。……でも仕方ないよね、クラス替えだし。切り替えていくしかないんじゃない?」
「…………そうだけどー、まあそうだよね。────それはそうとなんで5組に来たの?」
駆けつけた女子は少し不服そうな顔をしていたが、すぐに笑顔に戻り彼女が5組に来た疑問を問いかけた。
「えっとねー、ちょっと部活関係で……、このクラスに宇和間君っていう人いる? その人に用事があって来たんだけど…………」
「宇和間? ………知らない……けど、男子はあの後ろに座ってる人しかいないからあの人なんじゃない?」
「あっ、そっかー。よく考えてみたらそうかもしれない。ありがとう。あの人に声掛けてみるよ」
「えー、もう行っちゃうの? もっと話したかったのにー」
「ごめんね、この後部活あるしあんまり時間無いの。また会いに来るからそのときいっぱい話そっ」
「………わかった。絶対に来てねー。絶対だよ!」
「うん。それじゃあ、またね」
そのきらびやかな眼差しに少し圧倒されているように見えたが、すぐに笑顔に戻っていた。
俺は彼女らが談笑している間、彼女が教室に入ってき尋ねていた時、すぐに返事をしておくべきだったと後悔していた。俺にとっては無駄な時間であったからだ。
彼女は別れた後、こちらに向かって歩いてくる。そして、俺の席の前で立ち止まり声を掛けてきた。
「あのー、君は宇和間君であってる?」
俺はその声に連れられて彼女のほうを見た。少し不安そうな顔をしながらこちらを見つめている。
俺が顔を見たとき、初めに思った印象は………
(この人どこかで見たことあるような……)
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やっとヒロイン1人目出せました。まさか校長先生の話であんなに書くとは自分でも思っていませんでした。
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