25ぽめ

吾輩はポメである。名前はテンだ。


吾輩、このポメラニアンという可憐すぎる種族に転生し、無力さに嘆いている。


なんなのだ!このつぶらな黒い瞳は!

なんなのだ!このふにふにの肉球は!

なんなのだ!このふわふわの被毛は!


こんな体では人間をダメにしてしまうではないか!


吾輩は愛玩犬ではない!立派な番犬なのだ!

それなのに……


まあよい。こんな吾輩にも前世よりも優っていることが幾つかある。それは……俊敏さだ。

このポメという種族になり、吾輩は矮小なるこの身に絶望し、偉大なるハスキーに近づくため日々修行に勤しんでいる。

流し目ひとつで仔人間を黙らせた凄みはどこにもないが、吾輩の俊敏さには追従するものはいないだろう。


さあ、今日も走ろう!吾輩を捕まえられるものは誰もいまい!


吾輩はどあの隙間から部屋に入り込み、だいにんぐてーぶるへと向かう!


捕まえられるものなら捕まえてみよ!


吾輩は椅子を飛び石代わりとし、机へと飛び乗った。源義経なるてれびの中の武将もも驚くだろう!


ふっ、吾輩の辞書に不可能という文字はないのだ。可憐すぎる身に転生し、絶望に苛まれようとも克服すればいい話だ。


吾輩は得意になり、お母上の珈琲に狙いを定めた。


あ!何をする!


だいにんぐてーぶるの上で珈琲を待つ吾輩の体が宙に浮いた。

気付けば吾輩はお嬢さんの膝の上で抱きしめられていた。


離してくれ!今吾輩は珈琲を待っているのだ!


ジタバタしようとも矮小なるこの身…非力すぎる身体ではどうしようもない。


嗚呼……何故こんなことが起こるのか。世の不条理とはこのことなのか。


今日も吾輩は鼻を鳴らす。


吾輩はポメである。名前はテンだ。

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