21ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 吾輩は自宅警備員である。庭の柵から外を見渡し家庭の安全を守るのが吾輩の役目である。


 ブロロロロ……


 はっ!あれは毎日毎日夕方に我が家の手紙受けにあやしい薄灰色の巻物を入れていく、怪しい二輪車だ。


 ワン!

 怪しいやつめ!

 ワン!

 いつもいつも!

 ワン!

 何のようだ!

 ワン!

 この家には!

 ワン!

 一歩たりとも!

 ワン!

 入れないぞ!

 ワン

 帰れ!

 ワン!

 帰れ!


 吾輩はこの怪しい二輪車の男を見るといつも全力で吠える。矮小なる我が身なれど、この身一つで家庭が守れるならそれでいいのだ。


 ワン!

 こっちを!

 ワン!

 見るな!


 ブロロロロロ……


 自動二輪車の男は、しばらく吾輩を見つめたあと去っていった。


 ふう。今日も追い払ってやった。吾輩の勝利である。

 しかし、屈強なるかつての我が身であったなら、あのような輩を近づけることはおろか、見つめることさえさせなかったものを。

 それもこれも、この可憐なるふわふわぼでぃが悪いのだ。


 嗚呼。あの頃の壮大なる我が身が懐かしい。たったひと睨みするだけで怪しいやつを追い払うことができたのに。

 やかましく吠えなければ怪しいやつを追い払えないなんて、なんと落ちぶれたものよ。

 嗚呼、可憐なる好みが恨めしい。このように沢山吠えるなんて弱い犬のすることではないか……。


 だかしかし、吾輩は自宅警備員である。家庭の安寧を守るためならば吾輩の自尊心など二の次である。今はまだ。

 いつかサモエドとなり、屈強なる吾輩に返り咲くまでは。


 吾輩はポメである。名前はテンだ。

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