20⃣ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 吾輩は今やっと念願の場所に辿り着こうとしている。それは台所の調理台の上だ。そこにはいつも美味しそうなご馳走がたくさん出てくるのだ。きっと今も美味しいものにあふれかえっているのに違いない。


 吾輩は食卓の椅子にはいのぼり、次の飛び石である、かうんたーちぇあーなるものに狙いを定める。


 少し高さはあるが、吾輩の跳躍力なら跳べるだろう。


 吾輩は食卓椅子の背中によじ登り、かうんたーちぇあーに跳びうつった。


 うむ。うまく行った。


 さあ、次は調理台だ。今はご馳走は並んでいないがきっとそのうち出てくるのだろう。吾輩はそこで優雅に待とうではないか。


 かうんあーちぇあーから前脚に力を込め、調理台へと跳びうつる。


 つ、つ、ついに、この日が来たのだ。この桃源郷のような場所に辿り着いたのだ。さあ、ご馳走を食らいつくそうではないか。




 しかし、待てども暮らせどもご馳走は現れぬ。


 何故だ。お嬢さんが調理台に近づくとたくさんのご馳走が現れているのに。解せぬ。


 もう少し、もう少しと待っていてもご馳走は現れぬ。



 もうよい。吾輩はこの場所から去ることにした。


 ……高い。いや、吾輩の華麗なる跳躍ならば飛び降りることなど大したことではないはずだ。

 何を恐れることがあろうか。矮小なるこの身になろうとも屈強なるハスキーの心は忘れていないはずだ。


 いくぞ!


 …高すぎる。今の吾輩にはこの高さを飛び降りはことはできぬ。

 嗚呼、かつての壮大なる我が身であったなら…これくらいの高さ何の問題もなかったのに。

 嗚呼、この可憐な我が身が恨めしい。


 吾輩はきゅんきゅんと情けない声をあげ、調理台の上でうずくまった。


「あ、テンちゃん!」


 …なんと!悲嘆に暮れる情けない姿をお嬢さんに見られてしまったではないか。

 嗚呼、情けない。もう腹でもだしてしまおう。


 そんな吾輩の様子を気にすることなく、すまほを向けてくるお嬢さん。何をしておるのであろうか。


 ひとしきりパシャパシャと音を立てたあと、お嬢さんは吾輩をひょいっと持ち上げた。

 情けない吾輩はそうして調理台を後にしたのである。


 嗚呼、此度はご馳走にありつかなかったが、次回こそは食べてみせる。


 吾輩は鍛錬することを心に誓ったのである。



 吾輩はポメである。名前はテンだ。



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