16ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 今、吾輩は激怒している。なぜなら吾輩は閉じ込められているのだから。


 今日、吾輩の家には客人がやってきた。客人と言ってもご友人ではないようだ。吾輩は自宅警備員として、客人がどのような輩であるのか見極めねばならない。平生であれば、吾輩は可憐な見た目を利用して愛想を振りまき客人の側から離れぬのが常なのである。

 しかし、本日の吾輩は一室に閉じ込められている。これでは吾輩の職務が遂行できぬではないか。


 もし、吾輩がかつての壮麗なる姿であったなら、漆黒と純白のこんとらすとの中にある淡青色と琥珀色の眼で見つめるだけで自宅の警備は完璧であったのに。吾輩の威厳ある姿に恐れおののき何者も手出しできなかったであろう。しかし、この可憐なる姿では五月蠅く付きまとうことしかできぬ。それなのに…


 嗚呼、なんとこの身の矮小なることか。

 かつての吾輩が姿を現すだけで逃げて行った悪辣な小僧どもの様子が懐かしく思い出される。


 吾輩はこの猛烈な怒りをどうにかして伝えねばならぬと可憐なる声で吠えつづけた。


 だめだ。こんな声では届かぬ。


 吾輩は周りを見渡し、少しでも吾輩の怒りが伝わるようにと部屋の一角を汚した。


 ふう。


 吾輩は少し溜飲をさげ、部屋の外の様子に耳を澄ませた。


 ガラっ


「テン!」


 客人は何事もなく帰ったようだ。


 お母上は怒っているようだ。そんなことは知らぬ。吾輩の仕事を奪い閉じ込めたお母上が悪いのだ。



 吾輩はポメである。名前はテンだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る