15ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 吾輩の特技は跳躍である。屈強さを失いしこの身の能力を補うために、日々鍛錬し鍛えあげてきたこの身体。今となっては跳び越えられぬものなどないと自負していた。


 しかし、世の中は無情である。


 この並ぶもののない吾輩の跳躍力を以ってしてでも越えられないものはあるのだ。吾輩は今日それを思い知ったのだ…。




 お母上は部屋の内装を変えるのが好きである。その日、吾輩はいつもの通り、いつもの場所から、いつもと同じ全力で跳躍した。しかし、いつもと違って長椅子の向きが違っていたのだ。

 吾輩は、長椅子の背もたれ側から跳躍した。しかし、力及ばず、長椅子に跳び乗ることができなかったのである。

 吾輩の小さな肉球は、長椅子の背もたれの上に届いた。それなのに、吾輩の矮小なる肉体は長椅子の背もたれに激突したのである。


 もし、この肉球がかつてのように大きな肉球であったなら…、いや、かつての壮麗な肉体であったなら、これくらい颯爽と跳び越えていただろう。


 嗚呼、この程度さえ跳び越えられぬのか。吾輩は小さな歯を食いしばった。

 この可憐な肉体は、何故こうも吾輩の期待を裏切るのであろうか。


 しかし、吾輩は諦めぬ。肉球は届いたのだ。また鍛錬を積み重ねれば、いつかきっとこの聳え立つ壁も越えることができるであろう。


そしていつかサモエドとなってみせようではないか。


 吾輩はポメである。名前はテンだ。

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