14ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンである。


 本日、吾輩は進化したかもしれない。もちろんサモエドにではない。スピッツにだ。


 事件はお嬢さんの一言から始まる。


「あれ?テンちゃん重くない?」


 重い…だ…と?

 お嬢さん、今、吾輩のことを重いとおっしゃりましたか?


 ついに、ついに、スピッツに進化したのだろうか。ポメラニアンに生まれて苦節4年。やっと進化できるのであろう。


 嗚呼、何と喜ばしいことか。以前、散歩の途中で出会った吾輩と同じ形体、色こそ白であったが、吾輩と同じ毛質。吾輩より幾許か大きいあのスピッツになる日が来たのだな。


 嗚呼、何と嬉しいことか。かのサモエドになる日もきっと遠くはないだろう。


「体重測ってきて。」

「はーい。」


 吾輩は秘めた興奮に胸を躍らせ、お嬢さんが体重を測ってくれるのを待った。


「4キロ」


 4きろ、それがどれくらいの重さなのか吾輩には到底見当はつかぬ。だがきっとこれがスピッツの重さなのであろう。


 吾輩は感動で胸を震わせていた。お母上の一言があるまでは。


「4キロだったら、ポメの範囲だね。」


 ぽ…ポ…メ…だ…と…?


 今お母上はポメと仰ったのか?聞き間違いだらうか?


「ポメ?」


 お嬢さんが聞き返した。


「うん。普通のポメ。」


 嗚呼、何と、犬生の厳しいことか。スピッツになることのなんと難しいことか。


 吾輩はお嬢さんが手にするお菓子をキッと睨んだ。


 まだ食べ足りないということか。沢山食べねばなるまいな。


 さあ、お嬢さん吾輩にも一口くだされ!


 吾輩はポメである。名前はテンだ。

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