13ぽめ
吾輩はポメである。名前はテンだ。
吾輩は今身動きが取れない。何故か。お嬢さんが吾輩を羽交締めにしたまま眠ってしまったからである。
かつての壮麗であった吾輩はお嬢さんに抱きつかれて眠られてはいたが、お嬢さんが眠ったあとにそっと寝床を抜け出すことができた。
しかし現在の矮小なるこの身では、非力なはずのお嬢さんの腕を押し退けて動くことはできぬ。
嫌ではない。嫌ではないのだ。
いやむしろこのような卑小の身なれどお嬢さんを眠りに誘うことができたのは喜ばしいことである。
しかし、吾輩には自宅警備員という立派な仕事があるのである。
吾輩は台所へ行き、夕飯の支度により発生するおこぼれをいただかなくてはいけないのだ。それもこれも、いつかサモエドへと進化するためである。
吾輩は、少し身じろぎしてみる。お嬢さんの寝返りのきっかけになりはしまいかと。決して起こしたいのではない。いま少しの隙間が欲しいだけなのだ。
嗚呼。矮小なるこの身が恨めしい。かつての屈強なる身体であったなら、お嬢さんを起こさずにそっと優しく去ることができたのに。
嗚呼。何故、こんなに可憐で非力な体になってしまったのか。
嗚呼、何故、こんなに人を惹きつけてやまないふわふわの被毛になってしまったのか。
解せぬ。これぞ不条理である。
吾輩の鼻はピスピスと可愛らしい音を立てている。
嗚呼、情けない。
これが、かつて悪辣な小僧を蹴散らしたハスキーのレディ様であっただろうとは誰が思うだろう。
嗚呼、この非力な我が身、受け入れるしかないのだろうか。吾輩は月の浮かんでいない空を見上げ、眠りに落ちる寸前にピスピスと鳴いた。
吾輩はポメである。名前はテンだ。
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