11ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 今吾輩は、この家に再び来ることになった契機を思い出していた。


 いつからか、 吾輩はとある場所で小さな箱に閉じ込められていた。前世でも前前世でも父母のもとからお嬢さんの手により選ばれ、数日後に今の家へと連れて帰られていた。

 それなのに、父母の元で待てども待てどもお嬢さんは来ず、小さな透明な箱に閉じ込められ、もしやお嬢さんは吾輩以外のハスキーを迎え入れてしまったのでは、と不安に苛まれていた。


 吾輩は思った。それもこれもこのハスキーに似つかわしくない蒲公英の綿毛のような尻尾が悪いのだと。


 吾輩はこの憎らしい尻尾をぶちぶちとちぎっては悲しみに暮れた。


 ある日、観衆の目に晒されてている吾輩に転機が訪れた。

 なんと、お父上とお母上が吾輩のいる場所に来たのである。


 吾輩は小さな箱から取り出され、お父上に手渡された。


 お父上!吾輩であるぞ!前世までの漆黒と純白の美しい毛皮は失われ、薄い茶色となり、ふわふわになってしまった。かの壮麗で凛とした我が面影は感じられぬかもしれないが、これが今の吾輩なのだ。


 吾輩はお父上の顔を舐めた。かつての違い爪の先ほどの大きさしかない舌だが、気持ちは伝わるだろうか。


 しばしのふれあいの後、吾輩は小さな箱に戻された。


 嗚呼、吾輩の思いは伝わらなかったのだろうか。それもこれもこの可憐な見た目がいけないのだ。


 数日後、吾輩は洗われ、お父上とお母上に引き渡された。

 その日の夜、お嬢さんが帰宅し、吾輩と再び友誼を結ぶのは別の話である。



 吾輩はポメである。名前はテンだ。

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