8ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 吾輩の特技は跳躍である。その特技を磨くため今日も吾輩は跳び続ける。


 お、今日も跳躍の時間だ。

 お母上が吾輩のご飯を調理してくれている。


 トン

 お母上!

 トン

 吾輩の!

 トン

 ご飯は!

 トン

 もっと!

 トン

 多く!

 トン

 入れて!

 トン

 くだされ!


 吾輩のご飯はいつも少しだけだ。前世の四分の一ぐらいだ。しかも柔らかくされている。

 こんな少しの量じゃいつまでも大きくなれる気がしない。


 む。吾輩のご飯ができたようだ。


 さあさあ、はやくくだされ!

 吾輩の華麗なる回転をお見せしよう。二本足で立つこともできるぞ。すごいであろう?もっといっぱいあげとうござらんか?


 吾輩の高速お座りをして、ご飯を饗されるのを待つ。


 うまうまうま。美味である。

 …もうなくなってしまった。残念だ。


 吾輩はだいにんぐてーぶるへ向かう。そして椅子の上によじ登りお父上を見つめるのだ。矮小なるこの身なれど、可憐さは他の追従を許さない。


 見よ!この愛くるしい眼差しを。


 吾輩はだいにんぐてーぶるの上に上半身を乗り出しじわじわとお父上ににじり寄る。


 可愛いであろう?何かあげたくなるであろう?


 吾輩はお父上をひたすら見つめていた。


 ちっ、今日は目が合わぬ。


 お嬢さんは幼少のみぎりより吾輩らと一緒に暮らしておる故、おねだりは通じぬ。鋼の意志の持ち主だ。


 お父上はテレビを見て油断しておる。今だ!吾輩はお父上の膳にある豚肉に狙いを定め飛び出した。


 ガシッ!


 何をする!あと少し、あと少しで豚肉にたどり着けるのだぞ!

 吾輩は振り返りざまに不埒な邪魔者の手に噛みつこうとした。

 その時、吾輩の体は回転し、あおむけにされていた。

 くっ、この技はお嬢さん。


 お嬢さん!吾輩が大きくなるのは、お嬢さんのためでもあるのですぞ!


 もうこうなっては動けまい。

 吾輩の今日の野望は潰えたり。


 だが、吾輩は諦めぬ。いつかかつてのごとく屈強な体になってみせる。



 吾輩は(まだ)ポメである。名前はテンだ。

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