7ぽめ

 吾輩はポメである。名前はテンだ。


 吾輩は今昼寝の途中である。

 お母上により、晴れた空の下で充分に干されたふかふかのクッションの上で午睡を満喫しているのである。


 嗚呼、有り難や。至福の時である。


 吾輩、かつてより眠ることが好きなのである。

 このようにふかふかのクッションで寝るのも好きだが、とある椅子の上で眠るのも好きなのである。


 それはまっさーじきと呼ばれる椅子だ。かつてハスキーだった頃の吾輩の大きさに一番しっくりきた椅子である。


 ふむ。移動するとするか。


 吾輩は颯爽と家の中を移動し、まっさーじきへと飛び乗る。矮小なる今のこの身には大きく感じるが、この椅子に乗るとかつての偉大で屈強な我が身を思い出すことができる。

 白く長く美しい我が腕、黒く輝く背中の被毛と顔の模様。理知的な青い目と柔和な茶色い目。嗚呼、かつての美しい我が身が懐かしい。あの長くまっすぐ伸びた黒い尻尾も今となっては過去のものだ。

 だが、今しばらく過去の吾輩へと思いを馳せようではないか。



 そんな吾輩を襲う浮遊感。


 何をする!


 凛々しく獰猛に発生したはずが、吾輩の口から出たのは貧弱な小型犬の声。そうだ吾輩は今ポメラニアンであった。


「テンちゃん、一緒に座ろう!」


 お嬢さんである。吾輩の微睡の邪魔をするのはいつもお嬢さんだ。お変わりないようで安心する。



 無力な吾輩の過去への憧憬は断ち切られ、現実へと引き戻された。吾輩はお嬢さんの膝の上だ。吾輩に求められる役割は膝掛けである。


 良く寝る子は育つという。吾輩も良く眠れば大きくなれるだろうか。



 吾輩はポメである。名前はテンだ。






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