スキル発現

 俺はジンに言われたとおりに町から出て歩いた。

 だが歩けども歩けども、全く森が見えてこない。


「運動不足の俺にこれはきつすぎるってマジで」


 そんなときにギルドではジンに話しかけられてよく見れなかったスキルが気になった。

 もしかするとこれが俺に与えられた能力なのかもしれない。

 俺は歩きながら自分のギルドカードを取り出しスキルの欄を見てみることにした。


 ーーーーーーーーーーーー

【スキル】

 スロットマシン

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 俺に与えられたスキルはスロットマシンというものだった。

 転移前の趣味やら性格が反映される仕組みなのかはよくわからないが俺にはすごくなじみの深いものだ。


「よっしゃあ!。よくわかんねえスキルだし1回どんなもんかつかってみるか!」


 俺は手を開くとそれっぽく前に腕を伸ばした。


「スキル発動!スロットマシン!」


 俺の手のひらから魔法陣のようなものが現れて光りだす。


 そして現れた。


「こんにちわペカ!。勇者様のお役に立てるよう僕も頑張るペカよー!」


 ピエロの恰好をした謎の子供が。





 俺は恐らくそういうことだろうと思いながらも、突如現れた謎のピエロ児童に恐る恐る話しかけてみる。


「あーえーと・・・君だれ?」


「僕はスキルの説明書ペカ! 分からないときは僕に聞くといいペカよ!」


「あーそうですか・・・・。じゃあ早速スロット回したいんですけど・・・・」


「了解ペカ! よいっしょと」


 ドンッとピエロ児童はどこにしまっていたのかどこから出したのか不思議なほどのスロットマシーンを俺の前に置いた。


「じゃあ回すペカ」


 そう言ってピエロ児童はニコッとする。

 これどこから見ても俺の世界にあったランプが光ったら当たりのやつやんけ。

 ピエロ児童が出てきて挙句の果てにペカとかいう謎語尾の時点でなんとなく分かったけど、普通スロットマシンって聞いたらカジノとかにあるやつ想像するやん。


「・・・これスペックはどんなもんなんだ?」


「最高設定ペカ。ビック1/240 バー1/240の激アマ仕様ペカ。時給5000円ペカ」


「おお!5号機仕様かよ。中々気前がいいじゃねえか!では早速」


 俺はスロットマシンのレバーを叩こうと台に近づいた。


「あーあとこのスキルは24時間に1回転しか回せないからよく考えて使うペカよ」


「え?1日1回転しか回せないってこと?」


「そうペカ」


 ピエロ児童は何故か自信満々に頷く。


「・・・・・・・1回転でどうにかなるわけねえだろうがあぁぁあああぁあ」


「ペカアアアァア」


 ピエロ児童はスペックを話した時とは打って変わり、落ち込んでいるようだが普通にゴミスキルだろこれ。

 いや確かに激アマなんだがそれは俺の世界での話で、1日1回転しかできねえなんて縛りがあれば普通に当たり引くまでに何日かかるんだよ。

 何かあんだろ何か。流石にこんなスキルを渡して世界救ってねえは都合がよすぎる。てか無理。


「おいピエロ。落ち込んでねえでこのスキルについて詳細に教えろ」


「僕はピエロじゃないペカ。説明書ペカ」


「あーもうそんなことはどうでもいいからスキルの説明を・・・」


「どうでもよくないペカ!僕がピエロだと認めたら色々まずいペカ」


 まあ確かにそれはそうかもしれない。


「あーもういちいち説明書っていうのが面倒なんだよ。じゃあスキルだしスロットだしスーでいいだろ。今日からお前はスーだ。わかったな」


「わかったペカ。僕は今日からスーペカ」


 スーは名前が気に入ったのかまた機嫌を取り戻したようだった。

 あーめんどくせー

 そもそも俺はガキが苦手なんだよ。


「よしじゃあスー。スキルの詳細な説明を・・・」


「きゃああああ。誰か助けてええええぇえ」


 スーにスキルの詳細を聞こうとした瞬間、どこかで少女の悲鳴が聞こえた。


「おい!スー!今の聞こえたか!?」


「聞こえたペカ。あっちのほうだったペカ!」


 そういってスーの指さす方向に走ると少女が魔物から走って逃げているのが見えた。

 どうなってんだよジンさん。魔物出ないって言ってたじゃんよ。

 ああどうすりゃいいんだ。助けてやりたいけど俺に力はないし。


「勇者様!回すペカ!」


 どうすればいいか迷ってしまっていた俺にスーが力強くそう言った。


「回すって・・・当たりなんて1回転じゃ引けねえよ・・・」


「何言ってるペカ!無理かもしれない・・・負けるかもしれない・・・そんな恐怖と戦って・・・それでも!進み続けるのが勇者・・・いやスロッターじゃないペカか!」


「!」


 そうだ。俺は勇者とかそんな大それたもんじゃねえかもしれねえ。

 だが、俺は、スロッターだ!。それだけは譲れねえ!


「わりいなスー。そんなことも忘れちまってたぜ。・・・回すぞ!」


「了解ペカ!」


「あとスー、俺は勇者じゃねえ。スロッターのかけるだ!」


 俺はご丁寧にスロットマシンの前にあるイスに座った。

 この1回転に全てを賭ける。

 俺は魂をこめてレバーを叩く。


 第1停止 左リール下段にバーが止まる。チェリーは否定。

 第2停止 7が中リール中段に止まる。

 そして運命の第3停止。俺は7バーの塊を狙いタイミングを計る。


「いっけえええぇぇえええええ」


 第3停止 バーが右リール上段に止まる。

 これでバー7バーが右上がり一直線に揃う。

 俺は限界までボタンを捻じり上げ手を離す。ガコッという音と共にランプが光る。


「ははは・・・やった・・・・やったぞスー!。ビックバーのどっちかわからねえけど当てた!俺は1回転の勝負に勝ったんだ!」


 俺は喜びに打ち震えながらスーを見た。

 やってやった。みてるか全世界のスロッターよ。俺たちの魂はこんな困難に屈したりしねえ。



「うぅぅぅ。何やってるペカカケルゥゥゥ」


 スーは何故か喜び震える俺とは違い涙目で震えている。

 え?なんで?俺当てたよ。全世界のスロッターを背負ってこの理不尽に抗ったんだよ?

 そこで俺はある決定的な間違いに気づいた。


「もしかしてこれ・・・・・揃えられない?」


「当たり前ペカ!1回転しか回せないって言ったでしょペカアアァア!」


 しまったああああぁあああ


 渾身のミス。あまりにも台がいつも通りすぎて左リールバー狙いで打っちまったああああぁあああ

 どうなんのこれ。どうなっちまうんだよこれ。


「スーこれどどどどどういう判定になるんだ?」


「はずれペカ。バフなしペカ」


 その言葉にしばらくの静寂が流れた。



「・・・・・よし、帰るか」



 すまない少女よ。俺は負けたんだ。こんな無力な俺が君に何かしてあげられることなどありはしない。

 だが君のことは忘れないよ。この消えていくランプの光と共に・・・・


 俺はスロットマシンと共に消えていくイスから立ち上がり、森を目指そうとしたその時だった。


「あなた達なにしてるの?」


 鎧をまとい剣をもった少女から話しかけられた。

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