異世界到着

「おい兄ちゃん大丈夫か?おい」


「ん・・・」


 目を開けるとそこには見たこともない服をきたガタイのいいイケおじが俺の肩をゆすっていた。

 周りの風景も俺が見慣れた現代日本の街並みからは遠くかけ離れている。

 まるでゲームのような世界。なんていうんだっけ中世ヨーロッパ風?みたいな感じだ。

 最悪だ。何処かで夢であってくれたらと願っていたのだが


「おお。気が付いたか兄ちゃん」


 どうやら俺はこの世界のどこかの町の路上で寝ていたらしい。


「すいません。こんなところで寝てしまって。以後気を付けます」


「おう。この町の治安がいいとは言え、路上で寝るのはあまり褒められたもんじゃねえからな」


 そう言ってイケおじは去っていった。

 言葉は理解できるし、伝えられる。文字も認識できるがここら辺はあの女性が何かやったのだろう。


「さて」


 俺は立ち上がり周りを見渡す。

 意気込んで来たはいいものの、何をすればいいかさっぱりわからん。

 とりあえず夢の毎日設定6計画のために魔王を倒すことはマストだ。


 見たところこの町は特に緊張感が漂っているわけではないし、治安はいいとイケおじが言っていた。恐らくは戦線から遠い場所、もしくはまだ魔王とは戦いが始まっていないと見える。


「こんなことになるならもっとゲームとかアニメとか見とくんだったなあ」


 俺はパチンコパチスロ一筋で生きてきた。

 版権物については演出等で少し知識はあるが、その主人公たちがどのように生きていくかなどは全くと言っていいほど知らない。


 今の俺はパチ行きスウェットを着ているだけの無知な人間だ。

 そんなことを考えていたら、腹の虫が鳴った。

 そういえば昼飯を食べてねえから腹減ったなあ

 何かないかとポケットの中をまさぐってみるも何も入っていない。

 とりあえず金を稼がねえと宿どころか飯も食えねえ


 俺は通りすがりの男の人に声をかけた。


「すいません少しよろしいでしょうか」

「ん?どうしました?」

「お金が今すぐに必要なんですが働く場所とかご存じないでしょうか?」

「ああ。それならこの先をまっすぐに行くと突き当りに冒険者ギルドがありますよ。今すぐにお金がいるとなると冒険者ギルドくらいしか知らないなあ」


 冒険者ギルドか。ハンモンの集会所的なところなのかな。

 とりあえずそこに行ってみるか


「ありがとうございます。冒険者ギルドに行ってみます」

「どういたしまして」

「あともう一つ伺っていいですか?魔王ってご存じでしょうか?」

「ああ知っているよ今北の方で魔王軍と戦っているよね。まあ僕は戦うことはできないしこの町も戦線からはかなり遠いから祈ることしかできないけど」


 なるほど。魔王とはすでに戦いに入っているのか。


「色々ありがとうございます」

「どういたしまして」


 俺は男の人に礼を言って冒険者ギルドへ向かった。





「ここか」


 突き当りにある建物の中に恐る恐る入るとそこには鎧や剣などを持った連中がそこそこいた。

 恐らくここが冒険者ギルドに間違いないだろう。


 俺は受付であろうカウンターに向かい職員に声をかける。


「すいません。仕事を探しているんですが」

「はいはいってお前路上で寝てた兄ちゃんじゃねえか」


 よくみると受付は先ほど俺を起こしてくれたイケおじだった。

 おいおいこういうのって普通はかわいい女の子と運命の再会とかじゃねえのかよ。


「ど、どうも。ちょっと急ぎでお金が必要でして・・・」

「そうかそうか。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はジン。この冒険者ギルドで受付や料理人をやってる」

「料理人?」

「ああ、ここのギルドは酒場にもなっててな」


 確かに奥のほうは飯を食ったりまだ日も明るいというのに酒を飲んでいる者もいた。

 まじで集会所じゃねえか冒険者ギルド。


「そうなんですか。俺はかけるといいます」

「おう。よろしくなカケル。それじゃあ依頼なんだが。とりあえずお前のギルドカードを見せてくれ」


 ギルドカード?パチ屋の会員カードみたいなもんか?


「すいませんがまだ冒険者ってやつになったことがなくて持ってないです。丁度昨日この町についたばかりなんですよ。あと冒険者って職業についても聞きたいんですが」


「おいおい。冒険者になろうってのに冒険者が何かわかってなかったのか?冒険者ってのはまあそうだな。簡単に言えばなんでも屋だ。このギルドに色々な依頼が来てその依頼を達成して報酬を得る。依頼については色々とあるが最近は魔王軍の影響もあるのか魔物の討伐依頼が多いな」


「なるほど。報酬については依頼達成後にすぐにもらえますか?」


「ああ。依頼を達成したらまた受付に来て報告してくれればすぐに報酬を渡す。俺も仕組みはわかってねえんだが依頼についてはギルドカードですべて管理してあるから虚偽も出来ないようになってる」


 なるほど。ようはスロッターみたいなもんか。


「じゃあ冒険者としてギルドに登録すっからこの書類に必要事項を書いててくれ。俺はギルドカードを発行してくっから」


 そう言ってジンはカウンターの奥へと入っていった。

 とりあえず必要事項とやらに記入していく。


 しばらくするとジンが帰ってきた。


「待たせたな。これがギルドカードだ」


 そういって手渡されたのは小さい免許証のようなカードだった。

 ただギルドカードというわりには何も書いてなくてまっさらなカードだった。


「ジンさん。これ何も書いてませんけど。大丈夫なんですか?」


「それは今から綴られるのさ。ちょっと手を貸してみろ」


 なんかちょっと怖い感じもしたが俺は恐る恐るジンに手を差し出す。


 ジンは俺の手を取り針のようなものをチクリと指先に軽く刺した。


「いってええ。何すんですか!」


「これくらいでギャアギャア言ってたら冒険者なんてできないぞ。それより血をカードに垂らしてみろ」


 納得出来ないところもあったが言われた通りにカードに血を垂らしてみる。


 するとカードに文字が浮かび上がってきた。

 すげえなこの技術。いやこれが魔法なのか。


 ーーーーーーーーーーーー

 Lv1

 職業

 クラス F


 筋力 E

 防御力 F

 知力 E

 器用さ E

 敏捷力 E

 魔力 F


【スキル】

 ・スロットマシン

 ーーーーーーーーーーーーー


 絶対低いよなこの数値。まあ普通の人間ならこんなもんなのか?。

 ん?スキル?なんだこれ・・・


「どんなもんだ?あれ?結構ステータス低いな。カケルは今まで訓練とかしてこなかったのか?」


 ジンが俺のカードを覗き込んできてそういった。

 そりゃ普通に生きてたら魔物を倒す訓練なんてやんないでしょうよ。


「職業の欄になにもねえな。普通はなにかしら職業があるもんなんだが・・・」

「そうなんですか?」

「ああ、ただまあステータスが低くすぎて表示されてないだけかもしれねえなあ。正直このステータスじゃあ今ある依頼は紹介できないかもしれねえな」


 マジかよ。勇者はおろか冒険者にすらなれねえって。

 あいつ騙しやがったな。なにが魔王を倒せる能力だ。

 どうせ今も俺を見てて笑ってるんだ。そうだそうに違いない。

 クッソ。俺があの日あんな胡散臭い広告にタッチしなければ。

 いやそもそもパチで負けなければ。ぐぬぬぬぬぬ


 ただこのまま、はいそうですかと引き下がるわけにはいかねえ。

 なんてったって金がねえんだから。


「一番簡単な依頼でいいんです!。頼みます!なんでもしますんで!」


 ジンは少し考えている。

 マジでジンさんお願い。ここ一番大事だから。


「ったく仕方ねえな。正直今ある依頼でお前に任せられる依頼はねえ。だから俺からお前に依頼してやる。これは俺個人がお前に直接依頼するもので絶対他の奴には言うなよ。こんなこと特例中の特例だからな」


「はい!ありがとうございます!」


 うおおぉおおぉお ありがとうジンさん! やっぱりイケおじは違うな!


「依頼内容はこの町を出て少し歩いた先に小さな森があるからそこに行ってカシズの実を取ってきてくれ」

「カシズの実?」

「ああ、森の木にオレンジ色の実が生ってるからすぐにわかると思う。それを1つ銀貨100枚で買い取ってやる。あの森には魔物もいないからすぐに終わると思うが町の外に出るんだから注意はしとけ」


 銀貨100枚? 1枚いくらだ?

 まあ最悪その実を食うか。どっちにしろこれ以外金が稼げそうな仕事ないし。

 俺はジンに礼を言い、森に向かった。

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