第7話 試衛館組、土蔵相模で情報収集を行う
江戸に戻ると、早速試衛館に出向いて、英国公使が焼き討ちされるかもしれないことについて説明をした。
と言っても、襲う場所が分からないから、「多分、どこかを襲うだろう」という中途半端なものになる。俺が言っているとなると怪しいこと、この上ないので「山口が言っている」ということにして信用度を高める。
試衛館について驚いたのは、前に訪ねた時と比べてガランとしていることだ。
どうやら、近藤の中では京に行くという覚悟が固まったのだろう。
「なるほど。攘夷のために芝にたたずんでいると」
「そうらしい」
「その辺りの警戒は強めておこうか」
うん、とりあえずこれ以上強くは出られないな。
彼らが実際に焼き討ちした公使館は、この世界では存在していない。東禅寺で引き続き公使活動を行っているからだ。
となると、彼らが襲うのは東禅寺ではないか、とも思うが、分からない。ひょっとしたら横浜の居留地かもしれない。渋沢栄一だってやろうとしたわけだしな。
「しかし、薩摩も長州も財政が酷いと聞いたけれど、どこからそんな連中の活動資金を出しているんだろうねぇ」
途中から話を聞いていた総司が首を傾げている。
「うん? 密貿易だろ?」
俺は何の気なく答えた。
薩摩は奄美諸島があり、更には琉球に強い影響力を及ぼしている。
長州はというと、瀬戸内の玄関口にあり、朝鮮(と中国)との距離が非常に近い。
ということで、かねてから密貿易をやって儲けていた。その資金を尊王攘夷活動や、後々の武器購入費用にあてるわけだ。
「密貿易?」
あ、そういえば総司達は知らないんだった。
あまり詳しいところまでは説明できないが、日本地図を書けばそうしたところは分かりやすい。俺は地図を元に簡単に説明した。
「そうかぁ。んで、幕府も一枚噛んでいるから、本気で撤廃はできないわけだな」
「そうかもしれんな」
幕府内部に尊王攘夷派に傾倒している者も結構いる。思想的に共鳴している者もいるだろうが、単純に自分の利益ゆえにという奴もいるのかもしれない。
「……まあ、文句を言っても仕方ないな。とりあえず何とかしないといけないが、やはり土蔵相模あたりで情報収集かねぇ」
品川の名物妓楼である土蔵相模は、この時期長州の連中が集まっている。
ここで情報収集をすれば簡単だろうけれど、そう簡単に話は進まない。
まず、土蔵相模は安くない。幕府が補填でもしてくれない限り、連日調査するほどの費用を出すのは難しい。
と言って、「俺達はお上の仕事で来ている」なんて言って聞きこむこともできない。いや、できるはできるんだけど、それで本当のことを教えてくれるはずがない。土蔵相模にとっては上客だ。余程のことがない限り客を売ることはない。
そして、その余程のもの(確固たる証拠)を俺達は持ち合わせていない。
と、後ろの方から高笑いが聞こえた。
「ハハハハ、出費が高くつくのは勝っちゃんみたいな怖いのが行くからだよ」
土方歳三である。妓楼と聞いたか、やたら元気そうに見える。
「俺に任せておけ。三日もいれば探してきてやるよ」
「三日もいる気なんですか?」
総司の言う通り、俺も三日で見つけてくる自信ということよりも、「おまえ、三日もいるつもりかよ」という呆れの方が大きい。
とはいえ、女遊びは手慣れたものと言うし、任せた方がいいのだろう。
「おーい、平助。おまえも来るか?」
おっと、藤堂平助も呼んできたぞ。まあ、彼も土方同様に顔が良いから妓楼では有利かもしれないな。
「分かった。歳に任せるよ。だけど、遊びすぎるなよ」
人員まで決まって、本人が結果を出すという以上、近藤も認めるしかなかった。
こうして、半信半疑で土蔵相模に送り出された土方だったが、その効果は想像以上だった。
三日と言っていたが、次の日の昼には、もう藤堂平助が戻ってくる。
「決行は五日後、場所は横浜居留地のようです」
「……歳の奴、一体何をやって聞き出したんだ?」
近藤が唖然としているけれど、確かに僅か一日で、予定日も場所も聞きだすというのは凄い。何かマジックでも使ったのではないかと思えるほどだ。
「土方さんは、俺は京のこんなところにいっていた、長州や薩摩や土佐にはこんな連中がいるとことこまかに説明していましたよ。本当に京で尊攘派として働いているんじゃないかと思ったくらいです」
そういえば、あいつ、以前山口と一緒に京に行ったとか言っていたな。
その時の経験を生かしたというわけか。
うっかり、美形だけどお調子者というイメージになりかけていたけれど、本来は新撰組の鬼の副長なのだった。やはり油断できない存在なんだな。
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