特別編・幕末烈女隊出陣・中編
私を含めた五人の
それで私以外の四人がここに来たということのようですが。
はて……?
「それで、どうしてここに来られたのですか?」
その時点で初めて気づきましたが、それなら各々江戸城に行けば良いということです。何故、全員がここに来たのでしょうか。
千葉道場は剣術道場であって、
「どうしてって、千葉様は有名ですし、一度お会いしてみたいと思っていたのです」
と、中沢様。他の四人も頷いています。
「私、そんなに名前が知られているのでしょうか?」
「それはもう、江戸の千葉道場に佐那殿ありと」
「そうなのですか……」
名前が知られているということは良いことなのでしょうが、どうにも人様から褒められない方向性で有名になっているような不安がいたします。
「……まあ、何もないところですが、しばらくごゆっくりどうぞ」
幸い、晦日も近いので道場には門下生もほとんどおりません。ですので、私がやらなければならないことは少なく、四人の相手をすることはできるわけですが。
「それで、私達は何のために呼ばれたのでしょうか?」
と尋ねると、全員が「さて……?」という顔をしています。
「ひょっとしたら、上様の側女ということでは……?」
聞き捨てならないことを申したのは、中野殿でしたが、失本様が笑います。
「それなら、私のような姥桜は呼ばないでしょう」
確かに30を超えておりますが、どう返事をしたらいいものか、考えに窮してしまいます。
時間が近づきまして、私達は道場を出ることにしました。
桶町から江戸城まではそれほどの距離ではございません。到着すると、中沢様と失本様が手紙を差し出して、話をしております。
中野殿と山本殿も手紙を差し出している一方、私だけ何も持っていないので少し居づらい思いで待つことになります。
「参られよ」
番人に案内されて、城内へと入りました。
廊下を進んで、小さな部屋に案内されました。
「あっ……」
座っていた男には見覚えがございます。確か、試衛館の人達と時々一緒に行動をしている人ではなかったでしょうか。
「ようこそ参られました。拙者は山口一太と申します」
山口様は全員を見比べて、すぐに説明を始めました。
その内容は驚くべきものでした。
「端的に言うと、これから我々は日本の遥か外にある国と話をしなければならないのですが、そこに皆様もついてきてほしいということです」
「私達が、外国に……?」
中沢様がそう言って、失本様を見ました。
先程、話をしていたのですが、失本様は父親がオランダという国の人だそうで、名前をシーボルトと言うのだとか。
失本様が子供の時に、持ち出してはならないものを長崎から外に持ち出そうとしたことで日本から追い出されたのだそうですが、オランダも幕府と条約をかわして追放処分が解けたのだそうです。
「オランダにも寄ることになると思いますが、フランス、ロシア、プロイセンなど回る予定です。中でも重要なのがイギリスです」
「イギリスは、世界最強の国でございますものね」
失本様が答えました。山口様が頷きます。
「現在、ロンドンに我が盟友である宮地燐介が行っているのだが、この者、イギリス国王と仲良くなっておって、な。国王らが日本の強き女子を見たいということで、この度、燐介の提案を受けて、私が選任した。引き受けてもらえるだろうか?」
燐介が!?
彼の名前を聞かなくなって何年が経ったでしょうか。忘れたわけではありませんが、記憶の底に沈みそうになっている名前でした。
そうだったのですね。
燐介は国外で本懐を果たそうと頑張っていたのですね。
「……何故、女子なのでしょうか?」
中沢様が質問をされました。
確かにそうです。
私は燐介の名前に驚いていましたが、女子が五人、国外に行くというのは何やら不穏な話でもあります。
「女子だけではなく、男子も行きます。あと、私も行く予定です。皆さんが不安になるようなことはございません」
「ふーむ……」
外国のこと、となると、失本様以外の四人にはさっぱりですので、当然、彼女の方に視線が向かいます。
失本様はしばらく迷っておられましたが、小さく頷きました。
「私は行けるものならオランダに行ってみたいと思います。イギリス女王と会うのはとても恐れ多いことですが、それがお国のためと申すなら喜んで参りましょう」
「……お国のためとあれば、私も異論はございません」
中沢様も了承し、会津の二人も頷きました。
そうなると、私だけが断るわけにもいきませんので了承はします。
ただ、父や兄は何と言うでしょうか……
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