第4話 燐介、再びバッキンガム宮殿に召喚される①

 9月、俺達はサウサンプトンに着き、そのままロンドンへと向かった。

 9月6日にロンドンについた俺達を迎えに来たのは……。

「フハハハハ! 待っていたぞ! リンスケ!」

 港にいたのは、ルンペンのような姿をしたいかつい髭が目立つ強面の男。

「とうとう吾輩と共に革命を起こす気になったのだな!」

 男は満面の笑みを浮かべている。


 なってねーよ。

 何でカール・マルクスが目ざとくやってくるんだ。

「近いうちに来るだろうと思って、毎日待っていたのだ!」

 どれだけ暇人なんだ、おまえは。

 革命家なんだから、革命に向けての仕事をしろよ。

 いや、あまり革命されても困るから、このくらいでちょうどいいのかもしれないが。

「早速マンチェスターに向かい、吾輩とエンゲルスのチームと試合をするぞ!」

「ちょっと待てよ」

 こっちはサウサンプトンからロンドンに来たばかりなんだぞ。その後、またすぐにマンチェスターまで行くなんて大変なんだから。

「おまえとの約束を忘れたわけではないが、俺はゴルフのオープンも見たいからそっちに行くのは二週間ほど経ってからだ」

「何だと! ゴルフ!? 馬鹿者! あんな堕落した金ばかりかかるお遊戯などやるものではないわ! あんなものに興味をもつなど、革命家として情けないと思わんのか?」

 だから俺は革命家じゃねえっての!

 でも、確かにソ連や中国を含めて共産主義国にはゴルフ・コースはなかったというからな。

 サッカーとかアイスホッケーは大丈夫だったのに、ゴルフはダメだったことを考えると本当に資本主義的スポーツと見られていたんだろうな。

「嫌なら、おまえ達との試合はしない」

「むぐっ! ひ、卑怯な」

「9月29日にマンチェスターに行く。30日に試合するぞ」

 俺はそう言って、マルクスを追い返した。


 完全にマルクスの勢いに飲まれていたようで、いなくなったところで諭吉が尋ねてきた。

「あの変な男は誰だ?」

 諭吉は、欧米人に対しては多少奇抜なスタイルでも「これが欧米流」と尊重している。しかし、マルクスに対しては「変な男」と来たものだ。余程、変人に映ったようだ。

「カール・マルクスと言って、共産主義というものを唱える変人だ。相手にしない方がいい」

 中途半端に影響されて、諭吉が「慶應義塾で共産主義を教えよう!」なんてなっても困る。

「だが、試合をするとか言っていたぞ?」

「それはそうなんだがな」

 何だか知らんが、俺が負けたら革命運動をしなければならないことになったからな。

 革命活動は問題ないだろう。あいつ自身毎日暇そうに港で俺を待っていて、何もしていないからな。ただ、貧乏なマルクスの金策に駆り出されるのは勘弁してほしい。

 マルクスがどんなチームに仕立てているのかは分からないが、少なくとも奴に負けるわけにはいかない。色々な計画が狂ってしまう。


 そのためには、まずは何試合かして慣れておく必要がある。

 幸いにして、この前バーティーと再会したことでオックスフォードへの紹介状をもらってきた。まずはこれでオックスフォード大学チームと試合をし、そこで結果を出して色々なところと試合をしよう。

 その過程で北の方へと向かい、マンチェスターでマルクスとエンゲルスのチームにも勝ってからスコットランドに行き、オープンを観戦する。

 その後はまたロンドンヘと試合をしながら戻っていき、11月に英国に帰るバーティーと合流すればいい。


 到着したばかりなので、まずは一日ロンドンで休もうと、再びアメリカ海軍が使用しているホテルへと向かうことにした。

 ただ、先に来訪は伝えたいのでオックスフォード大学にバーティーの手紙を写したものを送らせた。

 ただ、これが良くなかったらしい。


 現代の日本やイギリスでは通信の秘密が保証されている。

 もちろん、100パーセント絶対大丈夫なのかは分からないが、手紙などを開封される心配はしなくていい。

 しかし、この時代はそうではなかった。

 俺達の手紙はロンドン中央郵便局で開封され、その中身があるところに報告された。

 結果、俺達は翌朝、食事をしているところで呼び出されることになる。

 呼び出された場所は……またもバッキンガム宮殿。


 ただし、呼び出した相手は違っていた。

 前回は女王本人だったが、今回はその夫であるアルバート大公だ。



※作者注:中国では1980年代半ば以降ゴルフはOKになりました。

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