第15話 燐介、総司にフェンシングを勧める
その後、俺はバーティーから現在の王室がいかに酷いものであるかという話を聞き、最後にフランス皇帝宛の紹介状を貰って別れることとなった。
令和の現代も、国王の次男が色々問題を起こしているが、その現国王にしても問題を起こしていたし、更に以前には駆け落ちして退位した王様もいた。
いつの時代も、王室というものは大変なんだなぁ。
バーティーは宮殿に戻ると言っていたが、逆に言うとこの二日間は別のところにいたことになる。それがどこであるのか興味はあるが、ここは聞かない方がいいんだろうな。
エリスに送ってもらって、ホテルへと戻った。
松陰達はまだ戻ってきていないらしい。
さて、どうするか。俺は今後のことを考える。
まず、松陰と山口は日本に帰る。これは松下村塾を開いてもらわないといけない事情がある以上、どうしてもやってもらわないといけない。
ということは、つまり、総司はしばらく残ることになる。
総司とジョージ・デューイを連れて、フランスまで向かう。
さしあたりそうしようとは思うが、問題はこの場合に総司が随分と上と繋がってしまうかもしれないということがある。
沖田総司がフランス皇帝ナポレオン3世とつながりができようものならどうなるか……
「お~、勇、歳。これからカタちゃんに会いに行くぞ」
「か、カタちゃん?」
「勝っちゃんよ、総司は会津様(
「な、何ぃぃ? 何て失礼なことを」
「やめろ、勝っちゃん。総司がフランス皇帝から資金を引き出しているから、俺達、超・新撰組が活動できているんだから」
「ちょっと歳さん、俺を呼び捨てになんてしないでくれる? フランス皇帝のダチであるこの沖田総司様を、さ。隊内に、俺様のことはムッシュ・ソウジと呼んでくれと指示してあるでしょ?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」、「おのれ、総司め……」
やがて増長した総司は、近藤、土方、
……。
まあ、さすがにここまで極端なことはないと思うが、多少なりとも
フランス皇帝の知り合いというだけで、近藤や土方よりは上になりそうだし、歴史改変が看過しがたいところまで行く恐れがある。
総司をフランスまで連れてくるのはやめておいた方が良さそうだが、ただ、松陰と帰すのも、この二人のタッグが幕末を変な意味で席巻する可能性があり、危険だ。
どうしたものか。
いや、待てよ。
日本では江戸後期以降、多数ある剣術流派が収束していき、剣道という形となっていった。
同じように、フランスでも数ある剣術が盛んとなっていて、フェンシングという形で収束していくことになる。
よし、沖田をフェンシング界に放り込むことにしよう。あいつもそろそろ剣術がやりたいだろうし、文句はないはずだ。
夕方、四人が戻ってきた。
食事の席で、松陰が切り出す。
「手前と一太は明日にはロンドンを発とうと思う。少し早めにサウサンプトンに行っておきたいので、な」
最初の頃は海外の地名に苦労していたが、さすがに一年以上を過ごしていて、すっかり発音も明瞭になっている。英語に関しても万次郎よりうまいかもしれん。地頭がいいんだろうなぁ……というと万次郎には失礼かもしれないが。
「そうなると、俺と燐介がヨーロッパに残るのか。うーん、何をしようかな」
「剣術とかどうだ?」
ちょうど総司が今後のことを言いだしたので、想定した回答をする。
「剣術? そういえば、ここに来てから拳で殴り合う連中は見たけれど、剣は見たことがないな」
「拳で殴り合う?」
「ああ、拳で頭を殴って、倒れたら数を数えているのを見た」
「ボクシングか……」
とは言っても、ボクシングもまだルールが正式には決まっていなかったかな。
「あれも面白そうではあるよな~。相手が予想していないところをガン! と一発殴ったら、ヨロヨロと倒れてしまうあたりが」
総司はボクシングにも興味を持っているらしい。正直、彼がボクシングは想像できないが、どうなのだろう。
「それじゃ、ボクシングを始めてみるか?」
ただ、薄情な話だが、総司が政治に興味を持ってくれなければ別にボクシングでも構わない。というより、どんな競技でも構わない。
「うーん、剣ができるなら剣の方がいいかな。多分、日本のものとこっちのものとは違うだろうから、最初は戸惑うかもしれないけど、それも含めて楽しそうだし」
「よし、それじゃ、俺がそうした流派を探してやるよ。ただ、イギリスよりも海を隔てたフランスの方が強いと思う」
「……へぇ、まあ、それは燐介に任せる」
総司は怪訝な様子を示しつつも了承した。
よし、次の目的地はフランス・パリだ!
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