その絶望を我と名付けよ
登美川ステファニイ
序 言獣の呼び声
この宇宙の始まりよりも先に言葉があったと、彼らはいう。
光よりも先に光という言葉があった。愛よりも先に愛という言葉があった。そして宇宙が生まれ、言葉はその概念を表す物質や現象となった。
彼らはその過程の中で様々なものを取り込み、受け入れ、咀嚼し、思索し、解釈した。そして意味を食らい大きくなっていった。
そのうちの一つが地球の属する銀河系となり、宇宙に光が生まれていった。
重なり寄せ集まった意味は凝集し、衝突し、爆裂した。そして細切れの意味の塊となり、そして再び周囲の意味を食らい、生き、育っていった。それが星となり、我々となった。
我々が彼らに遭遇したのはほんの数年前のことである。それはこの宇宙の歴史に比べれば、一瞬の瞬きにすら至らない極微小の時間に過ぎない。今を生きる私達が彼らに遭遇してしまった確率もまた、限りなく小さいものだ。それほどの小さい確率を言い表す言葉と意味も、きっと彼らはその内部に持ち合わせていることだろう。
我々は意味を奪われている。自覚できなくとも、それは確実なことだ。
彼らは問う。お前は何者かと。
我々は答えなければいけない。私は――であると。
さもなければ食い殺されるだろう。意味の泥濘に呑まれ、私達は霧散して意味を失う。我々は戦わなければならない。いや、こう言い換えるべきか。
あなたは、戦わなければならない。さもなければあなたは、あなたという意味を失うのだ。逃げ込むべき言葉の檻など、どこにも無いのだから。
出典「言獣の喚び声」
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