第12話 I HATE YOU.
家庭科室から呼び戻された生徒達が、教室に向かっている。
悪い知らせは、呼びに来た寺山 蛍悟からすでに聞かされていた。
誰もが重い足取りで固まって歩く中、宇佐美は跳ねるように列を追い越し、一番乗りで教室に飛び込んだ。
「やるじゃねえかよ、猿渡!」
猿渡の席まで来ると、突っ伏している頭をべしべしと叩いた。
「聞いたぜ! 嫉妬に駆られて忍を殺そうとしたんだって?」
あまりにも軽い口ぶりに、教室に残っていた生徒達は眉をひそめる。
「バカなやつ! なんでオレ様抜きで成功すると思うんだよ」
「……うるせえ」
猿渡はつっぷしたまま、宇佐美の手を片手ではじく。
いつになく殺気立った態度を前に、宇佐美はますます調子づいた。
「わかる。よ~くわかるよ。あいつ見ててムカつくよな。基本的に無反応だし、ナヨナヨしてるくせに美味しいとこはちゃっかり持ってくしさあ」
「うるせえ」
「なんつーの、主人公気取りっていうか。あの中二病くせーカッコとかも」
「だから、うるせえ」
「アイタター、そんなに目立ちたいんですかーッっつって」
「やッかましいんだよ、宇佐美!」
机を叩いて立ち上がった猿渡の顎に、宇佐美は鋭い頭突きをかました。
「こっちのセリフだ。何やらかしてんだよ、このむっつりメガネ」
口の中を切った猿渡は、宇佐美の豹変ぶりに唖然としている。
「オレ様がちょっと教室から離れたら、すぐこれか」
「宇佐美、怖いから。やめなよ」
部活動に出ていた生徒達も戻り始めていた。
なんの騒ぎかと戦々恐々とするクラスで、鳳が宇佐美のベルトを引っ張る。
宇佐美は鳳を後ろ足で蹴って、猿渡に凄んだ。
「なんのために亀井が落ちたと思ってる」
「宇佐美、落ちたってなんだよ。亀井は休んでるだけだから」
「スカし野郎は黙ってろ。こんなことのせいで、もしバニガメが」
「いやバニガメへの執着やば」
「うるさい! 忍が怪我しようもんなら大柴が全部台無しにするってわかってただろ!? このタイミングで、なんでおまえが事件起こしてんだよっ」
宇佐美は机に膝まで乗せて、ぐらぐらと猿渡を揺さぶった。
「体育祭に引き続き、文化祭までめちゃくちゃにしたいのか!? このバカ!」
いつもゲラゲラ笑いながら写真を撮り始める亀井がいないので、怒りの着地点をすっかり見失ってしまっている。
「女を寝取られてムカつくなら離れてればいいだろ! 妙に仲いいふりしてるからこんなワケわかんねえことになるんだろうが!」
宇佐美の喚きぶりは、もはや錯乱に近い。
さすがに放置しておけず、辰雄は席を立ち上がりかけた。
だが、猿渡は頭突きし返した。宇佐美が前の席まで吹っ飛ぶ。
「ざけんな! 誰もあんなキモいコミュ障と仲良くなんかしてないが!? あんなヤツ、僕はむしろ嫌いじゃ!」
「やめな。ねえ、やめなって」
「じゃー犯人はお前で決まりだな。変な遠慮せず、今からでも保健室行ってしっかりドタマかち割ってこいよ! ついでに職員室に自首して話を丸く収めてこい」
「だから、本人がそこにいるから」
鳳の言う通りだった。
鵜飼の指示で、保健室で形だけの診察を受けて戻ってきた忍は、宇佐美と猿渡のやりとりを最初から最後まで聞いていた。
だからと言ってどうということもない。
そんな風に、猿渡と宇佐美が驚愕の表情で固まる必要もないのだ。
ただ、以前からぼんやりと抱いていた感覚を猿渡本人が肯定しただけで。
忍はぼんやりと自分の席に着く。
やっぱり、初めから嫌われていたんだと思った。
当たり前だ。
和寿妃のことはもちろん、そもそも忍は人に好かれるような性格をしていない。
「まだお喋りし足りないのですか。着席なさい」
教室に戻ってきた小鹿が、いつも以上に厳しい調子で言った。
続いて入室した和寿妃が、教室の引き戸を閉める。
小鹿の監視に近い眼差しを受けて、生徒たちは席に着き、口をつぐむ。
「よろしい」
静まり返った教室を、小鹿は睨みつけるように見回す。
「それでは、これより学級会を始めましょう。書記は門馬くん、司会は大柴さんに預けます。どうぞよろしくお願いします」
激励よりも警告に近い一言に、門馬は首を縮め、和寿妃は黙礼を返す。
小鹿は教室の後ろに、腕を組んで立つ。
結果的に真後ろにつかれる形になった宇佐美は軽く舌打ちする。
忍はそのひとつ前の席で頬杖をついていた。
教壇に立った和寿妃が口を開く。
「司会を預かりました、大柴です。よろしくお願いします」
軽く礼の仕草をとり、犬のようにつぶらな目で周囲を見回す。
緊張した空気のなか、門馬はノートに書き取り始めた。
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