7:「生徒会長からのお知らせ」

 凍沢・夕霞はその放送を、部室に向かう途上で聞いた。


『僕はこれから大切な人を助けにいく』


 誓うように語る彼から恐れる心を救われた少女は、やっぱりの呟きに、

 ……せっかくカレーのレシピを用意したのに。

 憤りと喜びを半々に詰め込んで歩きだす。


『お願いだ。力を貸してくれないかな』


      ※


 瀬見内・颪はその放送を、寂しさに満ちる無人の教室で聞いた。


『知っている通り、僕は何も持っていない』


 嘆くように語る彼から夢の見方を教えられた少年は、知っているの呟きに、

 ……大丈夫だ。俺らだって、大したもんは持っちゃいないんだから大丈夫さ。

 憂いと喜びを半々に詰め込んでため息。


『だから、皆の力が必要なんだ』


      ※


 七目・雪はその放送を、誰もいない食堂の自販機前で聞いた。


『すごく我が儘なことを言っているよね』


 謝るように語る彼から強くなる理由を貰った少女は、その通りだの呟きに、

 ……けれど、俺の望みよりは慎ましいさ。

 苦味と喜びを半々に詰め込んで指を鳴らす。


『けれど、手を伸ばすことを諦める気にはなれない』


      ※


 八頭・旭はその放送を、美術室で夕空を見上げながら聞いた。


『その先に涙を流す人がいるうちは』


 期するように語る彼から明日を守られた少女は、無茶よの呟きに、

 ……それで一体、どれだけの人間を救う気でいるのかしら⁉

 呆れと喜びを半々に詰め込んで身を翻す。


『幾百人だろうとも、幾万人だろうとも、たった一人だろうとも』


      ※


 阿古屋・透はその放送を、夕日に塗られた廊下で後輩と共に聞いた。


『もちろん、強制なんかじゃない。ちょっとでも嫌だと思ったなら、構わないよ』


 笑うように語る彼から強いということを学んだ少年は、馬鹿だなの呟きに、

 ……ほっといたら一人で行く気だろ、ん?

 困惑と喜びを半々に詰め込んでバンテージを引っ張りだすと、


「桔梗さんは一体……」

「腹を括ったのさ、ん」


 戸惑うシータに、堪えきれずに湧き上がる笑顔を返す。


『そうだとしても後悔はさせないよ。きっと、望みを達して帰ってみせるから』


      ※


 誰もが困惑に耳をそばだてる校内へ、朗々とその放送は響き渡った。


『全校生徒のみんな』


 突然の呼びかけに、学内のあらゆるざわめきが消えた。体育館も、グラウンドも、特殊教室も、通常教室も、全てが戸惑いに静まり返る。


『もしかしたら、僕は帰らないかもしれない。だから伝えていくよ』

 誰かが、何をいきなり、と鼻で笑った。


『君の隣に立つ人のことを大切に思ってくれ』

 誰かが、そんなバカな、と頭を振った。

『そうすれば、こんな世界も少しは優しくなるだろう?』

 けれども。

 誰かが、けれども、と呟く。


『僕はそう、諦めに落ちる涙を決して許しはしないと決めたんだ』

 彼ならば。

 あの汀・桔梗ならば、あるいは。


『だから諦めなくていい。望んで伸ばせば、僕でさえも手は届くと言えるんだから』

 凪だった人の波が粟立った。

 互いに顔を見合わせ、戸惑いを、熱の帯びる確信へと変えていく。


『僕は今からそれを成す。偶然とはいえ、この隣に立ってくれた人を救いにいくんだ』

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