密やかに重ねる逢瀬②


「す、すまない⋯⋯⋯⋯」


 小さく震える声で謝るセオを見ると、彼は未だにふるふると震え可哀想なほど真っ赤な顔をしていた。


(視線は感じるくせに、私がセオを見ると目を逸らしていたのは女性に免疫が無かったからなのね)


 これまでの出来事に合点が行ったマリアンヌは大丈夫だと返事をするために口を開こうとする。

 しかしその時、今まで事の成り行きを静かに見守っていたアスモデウスから「ご主人さま、貴女も恥じらってっ!」という指示を受けた。

 その言葉に、マリアンヌはコクリと小さく頷く。


 不安げに揺れるブラウンの瞳とブルーの瞳がパチリと合う。

 マリアンヌはアスモデウスの指示通りにフイッと視線を逸らし、恥ずかしそうに頬を染めてみせた。


「う、ううん⋯⋯⋯⋯私の方こそいきなり声をかけてごめんなさい⋯⋯」

「い、いや⋯⋯義姉さんのせいじゃない」

「じ、じゃあ私⋯⋯今日はもう帰るわね⋯⋯!」

「ま、待ってくれ⋯⋯!!」


 不意にグイッと強い力で手首を掴まれる。

 マリアンヌが驚いて振り返ると、セオは縋るような表情でマリアンヌを見ていた。


「っ⋯⋯!」

「あっ⋯⋯すまない⋯⋯」


 マリアンヌが痛がる仕草を見せると、ハッと我に返ったセオの手は直ぐに離れていった。


「だ、大丈夫よ⋯⋯それよりどうしたの?」

「⋯⋯あ、ああ」


 セオは暫し言い淀んだ後、グッと心を決めて言い放つ。


「あっ明日も⋯⋯! また、ここで会ってくれるだろうか⋯⋯義姉さん⋯⋯」


 最後の方は消え入りそうな声音で話すセオの必死さに、マリアンヌは思わず笑いそうになるのを頬の内側を噛んでなんとか堪えるのだった。




✳︎✳︎✳︎




「さっすが僕のご主人さまっ! あっという間にセオを落としちゃうんだからっ♡」

「ふふっ⋯⋯セオは女性に免疫が無い分簡単だったわ」

「あ~! ご主人さまってば悪い顔してるーっ!!」

「そんなことないわよ。でも、これで計画の成功に一歩近づいたわ」

「うんうんっ! じゃあ、次はいよいよノアの攻略だねっ! 明日からも頑張ろーっ!!」


 テンション高く拳を振り上げるアスモデウスを見たマリアンヌは、静かにほくそ笑む。


「ええ。オリヴァーに手を出そうとする奴はどうなるか⋯⋯⋯⋯私がしっかりと教えてあげなくてはね」


 マリアンヌの足音はコツコツと静かな廊下に響き渡った。






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