仕立て上げられた悪女①
「ヘレネって⋯⋯あの神話の⋯⋯?」
「そう。ヘレネはギリシャ中の男性を魅了し、トロイアとの戦争の原因となった女性だよ。恋が分からないなら、彼女のように純真だけど奔放に、男性を惑わす悪女になりなさい」
「あく、じょ⋯⋯⋯⋯」
アスモデウスの言葉に、マリアンヌは思わず俯いた。
「どうしたの⋯⋯? ご主人さま」
「コイツはもう既にこの国のヤツらから公爵を誑かした悪女って言われてるんだよ」
無言のマリアンヌを見兼ねて、サタンがぶっきらぼうながらも口を挟む。
それを聞いたアスモデウスは「そうだったんだ⋯⋯」と申し訳なさそうな顔をして小さく呟いた。
「ご主人さま⋯⋯今からでも違う作戦を考えようか?」
アスモデウスの窺うような視線に、マリアンヌは俯いていた顔をゆっくりと上げる。
「ううん、アスモデウスの作戦で大丈夫よ。それに、もう慣れっこだもの。今更気にしてなんかないわ。⋯⋯でも、私のせいでオリヴァーまで悪く言われてしまうのはいつまで経っても慣れないわね⋯⋯⋯⋯」
「あっ⋯⋯そうだっ! ご主人さまとオリヴァーくんを悪く言うような奴は、僕が懲らしめてあげるよっ!」
先ほどまでの妖しげな雰囲気から一転して、力強く拳を振り上げるアスモデウスを見たマリアンヌは、思わず吹き出した。
「ふふっ⋯⋯その気持ちだけで嬉しいわ。⋯⋯ごめんなさい、気を使わせてしまったわね。ありがとう、アスモデウス」
マリアンヌはこれ以上、アスモデウスに心配をかけまいとにっこりと彼に笑いかける。
そして、それに応えるようにアスモデウスも笑顔を見せた。
「じゃあ⋯⋯アスモデウス。詳しい作戦内容を聞かせてくれる?」
「もちろんだよっ、ご主人さま!」
✳︎✳︎✳︎
「明日からいよいよ本番ね⋯⋯。頑張らないと!」
マリアンヌは今後の作戦会議を兼ねたお茶会の終了後、ティーカップを片付けながら一人呟いた。
サタンは後片付けをするマリアンヌを横目に、相変わらず一番上等なソファを陣取ってなにやら分厚い本を読んでいる。
アスモデウスはといえば、作戦会議が終わるなり何処かへ行ってしまった。
(もう、サタン様もアスモデウスもマイペースなんだから)
マリアンヌは自由奔放な悪魔たちに心の中でため息を吐くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます