偵察②



 マリアンヌが声をかけると、セオはビクリと大きく肩を揺らし振り向いた。


「ごめんなさい、いきなり声をかけて驚かせちゃったわね。実は私も時間が出来たからこれから本でも読もうと思っていたの。⋯⋯セオさえよければ、私もご一緒しても良いかしら?」

「⋯⋯あ、ああ。もちろん」


 セオの了承を得たマリアンヌは、彼と共に書庫へと入る。邪魔が入らないようにする為、マリアンヌはひっそりと後ろ手に扉を閉めた。



「セオは普段、どんな本を読むの?」

「⋯⋯俺は、戯曲が好きなんだ。だから、それに関する本をよく読む⋯⋯」

「そうなのね。どんな内容のお話が好きなの?」


 マリアンヌにはセオの趣味趣向などこれっぽっちの興味も無かったが、これも計画の為と必死に頭を回転させて話を掘り下げる。


「⋯⋯喜劇も良いと思うが、俺は悲劇の方が好ましく感じるな。物語が終わった後もしばらくの間その余韻を感じられるところが好きなんだ。それに、悲劇から学ぶことも多い」


 好きな本の話を振った途端、無口だったセオは栗色の瞳を輝かせて活き活きと話し出した。そんな彼の豹変ぶりにマリアンヌは些か面を喰らう。


(余程読書が好きなのね⋯⋯。もしも、セオがウィンザー公爵家の一員ではなくて違う出会い方をしていたら、オリヴァーの良いお兄さんになってくれたかもしれないわね。⋯⋯あの子も、本を読むのが大好きだもの)



「義姉さんは⋯⋯どんな本が好きなんだ?」


 突如として投げかけられた問いにマリアンヌはハッとする。


「私は喜劇————ハッピーエンドで終わる物語が好きね。もしも私が物語の登場人物だったとして⋯⋯自分の身に起こるとしたらバッドエンドよりも、ハッピーエンドで終わりたいじゃない?」






✳︎✳︎✳︎





 あの後、しばらくセオと書庫で話し込んだマリアンヌはキリの良いところを見計らい、彼にこの後予定があると嘘をついてその場を後にした。



(何故だかわからないけれど、どっと疲れたわ⋯⋯)


「アスモデウス、こんな感じで良かったかしら?」

「うんうん、ばっちりだよ! じゃあ次は2人目のターゲットに行ってみよっー!!」


 元気いっぱいのアスモデウスに対し、マリアンヌは心身ともに疲弊していた。


「え、ええ⋯⋯⋯⋯」


 マリアンヌは力のない返事をすると、よろよろと覚束ない足取りで歩を進めるのだった。






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