捜索①


「ノアったら、一体どこにいるの⋯⋯?」


 セオと別れた後、マリアンヌとアスモデウスは屋敷中を思いつく限り探し回った。

 しかし、屋敷中どこを探してもノアの姿が見当たらない。


 最後の手段だと気が進まないながらもマリアンヌはノアの自室を訪ねるが、後一歩のところで怖気付いてしまう。


(義姉が義弟の部屋を突然訪ねる理由って、何かしら⋯⋯?)



「ご主人さまぁ~? どうしたの?」

「ね、ねぇ⋯⋯アスモデウス。さすがにわざわざノアの部屋まで押しかけるのは気が引けるわ⋯⋯。残念だけど、ここはまたの機会にしない⋯⋯?」


 マリアンヌが諦めてアスモデウスにそう言った時、何者かが不意に後ろから声をかけてきた。


「そちらにいらっしゃるのは、奥様————マリアンヌ様ですか?」

「⋯⋯⋯⋯っ!!」


 ビクリと肩を揺らし、恐る恐る振り返ると屋敷で働く若いメイドが不思議そうな顔でマリアンヌを見ている。


「え、ええっと⋯⋯」


 煮え切らない態度のマリアンヌに首を傾げたメイドは、少しの間考え込んだ後、閃いたというように笑顔で口を開いた。


「もしかして、ノア様をお探しでしょうか? ノア様でしたら少し前にお出かけになりましたが⋯⋯」

「⋯⋯そっ、そうなのね。彼がどこに行ったかわかるかしら?」

「そこまでは⋯⋯。申し訳ございません」


 マリアンヌの質問に若いメイドはおさげ頭を揺らして申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


「ううん、いいのよ。教えてくれてありがとう」


 マリアンヌは肩を落とすメイドにこりと微笑みかけ、ノアを探すために街へと向かうことにした。


(彼女に勘違いされてなければ良いのだけれど⋯⋯もしそうだったら、これほど憂鬱な事はないわ⋯⋯)




✳︎✳︎✳︎




 マリアンヌとアスモデウスはノアを探すため、早速街に繰り出した。

 街は人で溢れかえっており、この中からノアを探し出すのは中々に骨の折れそうな作業だ。


(いつものドレスでは目立ってしまうし、この人混みだもの⋯⋯動きやすい服に着替えてきて良かったわ)


 マリアンヌは町娘風のくるぶし丈の簡素なドレスに身を包み、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ大通りのショッピング街を彷徨さまよい歩く。



「わぁ、すごい活気だねっ! あ、僕ここ行きたいっ」


 アスモデウスはあちこちうろちょろしたと思えば、人だかりの出来ているお菓子屋さんを指差した。

 お菓子屋さんのショーウィンドウには、チョコレートケーキやタルトなど見た目も美しく美味しそうなケーキが綺麗に並べられている。


「今はダメよ。後で時間があったら寄りましょう」

「はぁい⋯⋯⋯⋯」

「とりあえず、ノアの居そうな場所を片っ端から探しましょう」







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