迫り来る脅威②


「シラを切るつもりか? ⋯⋯お前の思考は全て俺様に筒抜けだということを努努忘れるなよ」


 そう言って、サタンは深い闇色の瞳でマリアンヌを睨み付けた。

 じとりと怒気をはらんだ表情で自分を見つめるサタンから逃れるように、マリアンヌは話題を戻す。


「⋯⋯そ、そんなことより、サタン様。出来ることならセオとノアを2人同時に始末してしまいたいの。あの2人は普段、大学の寮に住んでいるからこんな機会でもない限りそうそう会えないわ」

「⋯⋯⋯⋯」


 これ以上何を言っても無駄だと悟ったサタンは、渋々ながらもマリアンヌの話を聞くことにしたようだ。不機嫌そうな面持ちながらも、マリアンヌの話に耳を傾ける。



「なにか良い方法は無いかしら?」

「あるぞ」


 マリアンヌの問いにサタンは意外にもあっさりと答えた。


「本当!? きかせて頂戴!」


 期待に碧の瞳を煌めかせるマリアンヌを見たサタンは、悪戯を企む子どものようにニヤリと笑う。そして、ゆっくりと口を開いた。


「俺様のこの上なく素晴らしい策⋯⋯それは————色仕掛けだ」

「っ!?」


 思ってもいなかったサタンの提案に、マリアンヌは声を荒げる。


「⋯⋯サタン様、冗談でしょう!?」

「いいや、俺は本気だぞ。セオと⋯⋯ノアだったか? あの義弟2人はお前に気があるのが見え見えだよなァ? だったら、それを利用しない手は無いだろう?」

「っ⋯⋯そんなの、絶対にイヤよっ! 色仕掛けなんて⋯⋯そんなこと、私に出来るとは思えないもの⋯⋯! それに私は、仮にも夫がいる身なのよ!?」

「出来るさ、お前なら。それに、こういった男女の色恋沙汰には適任のヤツがいる」

「⋯⋯⋯⋯」


 サタンの突拍子の無い提案を受けたマリアンヌは視線をウロウロと彷徨わせ、困惑していた。しかし、そんなことはお構いなしに尚もサタンは話を続ける。


「俺の力を使えば人間の魂を刈り取るなど容易いが、それでは不自然極まりない。お前はあくまでも自然に、誰に気付かれることなく殺人を完遂させたいのだろう?」

「え、ええ⋯⋯⋯⋯」


(私が居なくなった後でも、残されたオリヴァーがこの国で生きていく為には、母親である私が人を殺めたなんて噂を立てられる訳にはいかないもの⋯⋯)



「だったら今回は、お前が文字通り身体を張るしかないな。⋯⋯ふむ。そうだな⋯⋯痴情のもつれの末の相討ち、というシナリオが妥当だろう」

「⋯⋯⋯⋯」

「なんだ、今更怖気付いたのか? 人間一人を手にかけた今、お前はもう後戻り出来ないのだぞ」


 サタンは挑発するように口角を上げてマリアンヌを見やる。

 その挑発に乗せられるかのようにして覚悟を決めたマリアンヌはゴクリと息を呑み、サタンを真っ直ぐに見据えて言った。


「わ、わかったわ。⋯⋯何だってやってやろうじゃないの⋯⋯! オリヴァーの為なら怖いことなんて何もないわ!!」






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