迫り来る脅威①


 マリアンヌの言葉を聞いたサタンは、さも愉快そうに目を細め「ほう、聞かせろ」と言って口角を上げる。

 それに軽く頷いたマリアンヌが事の発端であるセオとノアの企みを話すと、サタンはくつくつと笑い出した。


「ククッ⋯⋯そんじょそこらの有象無象の悪魔などよりもアイツらの方が余程それらしいではないか。自らの目的のために邪魔者を排除するその心意気は実に見事だ。魔界へスカウトしたいくらいだな」


 サタンは未だ笑いの余韻が残る表情でマリアンヌに言った。

 他人事だと面白がっているサタンの姿を見たマリアンヌは深くため息を吐き、彼を咎める為に口を開く。


「サタン様⋯⋯笑い事じゃないわよ⋯⋯! また、オリヴァーが危険な目に遭ってしまうかもしれないのよ!? せっかく、しばらくは静かに暮らせると思った矢先にこんなことになるなんて⋯⋯ 呪われているとしか思えないわ⋯⋯!」

「ふん⋯⋯お前の息子なら問題無いだろう。お前に似て図太そうだしな」

「⋯⋯っそんなわけないでしょう! オリヴァーはあんなにも幼くてか弱い子どもなのよ!?」


 マリアンヌは思わず、オリヴァーがセオとノアに誘拐される光景を想像してしまいサァッと青ざめた。未だ起こっていない出来事とはいえ、余りの衝撃に耐え切れなかったマリアンヌの身体は力無くよろめく。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 そんなマリアンヌのようすを、サタンは呆れ顔で見ていたのだった。





✳︎✳︎✳︎





「⋯⋯それで、どうやって殺すかは決めているのか?」

「⋯⋯まだよ。だからサタン様を呼んだんじゃない。私は、貴方に出会うまでは真っ当に生きてきたんですもの。そう直ぐには思いつかないわ」

「ハッ⋯⋯! 曲がりなりにも神を信仰するお前が悪魔に頼りきりとは⋯⋯とんだ笑い種だな」

「⋯⋯⋯⋯仕方ないじゃない。私が頼れるのは貴方しかいないんだもの」


 マリアンヌのその言葉を聞いたサタンは、ピクリと僅かに肩を揺らした後、喉を鳴らして笑い出す。彼は見るからに上機嫌なようすだった。


「⋯⋯ふん、仕方ないな。偉大な王である俺様が、無知で愚かな人間であるお前に今回も力を貸してやっても良い」

「ありがとう。さすがサタン様だわ!」


 マリアンヌは「俺は慈悲深く、優しい悪魔の王だからな」と過剰なまでに自らを褒め称えるサタンの姿をそこまで言ってないと思いつつ、苦々しい笑みを浮かべて眺めていた。


(⋯⋯やっぱり、サタン様って案外チョロいのよね)



 気が緩んだマリアンヌは心の中とはいえ、思わず本音を漏らしてしまう。

 しかし、その事に気付いた時には既に手遅れであった。再び肩を揺らして反応したサタンは眉間に深くシワを刻んでおり、マリアンヌの本心を見逃すことは無かった。



「⋯⋯⋯⋯おい」

「なにかしら⋯⋯? 私は今、サタン様って頼りがいのある素晴らしい王様だわって考えていたのよ?」

「シラを切るつもりか? ⋯⋯お前の思考は全て俺様に筒抜けだということを努努ゆめゆめ忘れるなよ」






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