ターゲット
「オリヴァー、いってらっしゃい。頑張ってね」
「いってきます、お母様!」
フレディのお見舞いに行った後、マリアンヌとオリヴァーは2人で少し遅めの昼食をとった。
昼食後、ゆったりとお茶を楽しんでいると、いつの間にかオリヴァーの家庭教師が屋敷に来る時間となっている事に気付いたマリアンヌ。美味しそうにクッキーを頬張るオリヴァーの手を引いて慌てて部屋まで戻る。
そして現在、教科書を手に足早に先生の元へと向かうオリヴァーをマリアンヌは些か
オリヴァーの後ろ姿が見えなくなるまで手を振りながら見送ったマリアンヌは、彼の足音が聞こえなくなった頃、自室へ戻ろうと踵を返す。
すると、遠くから微かに聞こえてくる男性の声にマリアンヌは思わずぴたりと足を止めた。
声の主はこちらに向かって来ているようで、徐々にその声はマリアンヌの耳にはっきりと届くようになる。
「————ら、絶⋯⋯にバ⋯⋯いって!」
「————かし、ハ⋯⋯スク過ぎな⋯⋯か」
(この声はセオとノア⋯⋯? なんだか揉めているようだけれど、一体何を話しているのかしら⋯⋯?)
何となくよからぬ雰囲気を感じ取ったマリアンヌは、サッと柱の陰に隠れて2人の様子を
「大丈夫大丈夫! 僕に良いツテがあるからさっ」
「⋯⋯まあ、最近首都でも子どもが攫われる事件が頻発しているからな⋯⋯俺たちの仕業だとバレないならそれで良い」
「貴族————しかも、上級貴族の子どもだったら外国では高く売れるらしいよ。邪魔者も排除出来て大金も手に入るなんて一石二鳥じゃない? 思い付いた僕って天才!?」
「⋯⋯この計画が上手くいけば俺たちにも爵位継承のチャンスが回ってくるのか」
「そうそう! いくら天下のウィンザー公爵家って言っても、元庶子の僕たちはこのままじゃ牧師や軍人になるしかないんだし⋯⋯そんな人生つまんないよ!」
「⋯⋯そうだな。しかし、どうやって売人に受け渡すんだ? ここの子どもたちは滅多に外に出ないだろ」
「うーん⋯⋯それはこれから考えるよ! ていうか、僕に任せきりにしないでセオも考えてよねっ!」
(どういうこと!? もしかして、2人はオリヴァーを⋯⋯!?)
驚いたマリアンヌは声を上げそうになるが、自身の口元を押さえ既のところでなんとか堪える。
幸い、話に夢中になっているセオとノアはマリアンヌの存在に気付く事無く、騒がしく会話をしながら通り過ぎて行った。
(確か、セオとノアはフレディ公爵とは半分しか血の繋がりが無いのよね⋯⋯。2人の母親であるゾーイは元々フレディ公爵の父親の愛人で、公爵の母親が亡くなったのを機に正妻になったはず⋯⋯。そのため、今のままでは前妻の子どもで現公爵であるフレディの息子のオリヴァーや、イザベラの息子トーマスとジェームズ、エミリーの息子アイザックの方が継承順位が高い。つまり、自分たちの継承順位を上げるために子どもたちを排除しようとしている訳ね⋯⋯)
「なんて⋯⋯野蛮なのかしら⋯⋯」
マリアンヌは、嬉々として計画を練りながら歩くセオとノアの後ろ姿を、きつく拳を握りしめながら荒んだ心で見送ったのだった。
✳︎✳︎✳︎
「⋯⋯サタン様、出てきて頂戴」
あの後、急いで自室に戻ったマリアンヌは、いつもよりも幾分か低い声で自身の影に向かって呼びかけた。
「なんだ、お前から俺を呼ぶとは珍しいな」
すぐにズルリとマリアンヌの影から出てきたサタンは意外そうに目を丸くする。
しかし、マリアンヌはそんなサタンに構うこと無く、氷のように冷え切った碧の瞳を向けて彼に告げた。
「⋯⋯次のターゲットが決まったわ。————義弟の、セオとノアよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます