背負う覚悟①
「⋯⋯馬鹿馬鹿しい。真面目に聞いて損した」
マリアンヌが先程見た悪夢の内容をサタンに話すと、彼はフンッと揶揄うように軽く鼻を鳴らした。
「なっ⋯⋯何よ、サタン様っ! せっかく話したのに⋯⋯!!」
マリアンヌは未だバクバクと早鐘を打つ胸を押さえながら、途端に興味を失い詰まらなさそうに頬杖をつくサタンを睨みつける。
「ハッ⋯⋯所詮夢だろ? 現実にはそんな事起こり得るはずがない。————何故なら、あの女はお前が殺したのだから。⋯⋯そうだろ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「夢は夢でしかない。⋯⋯が、夢は深層心理の現れともいう。つまりはお前の罪悪感が見せた夢だ。口では強がっていても、あの醜い豚を殺した事を本心では後悔しているようだな」
「そっ、んなことは⋯⋯!」
(違う、と言いたいけれど私は⋯⋯本心ではエミリーを殺めたことを後悔しているの? だから、あんな夢を見たのかしら⋯⋯?)
痛いところを突いたサタンの言葉に咄嗟に反論出来ず、マリアンヌは俯いて口を閉ざした。
黒曜石のような瞳でジッと見定めるようにしてマリアンヌを見つめるサタンは、深く長いため息を吐く。そんな彼の視線から逃れるように顔を伏せるマリアンヌの瞳は、心ともなくゆらゆらと揺れていた。
「まだまだお前は甘いな。⋯⋯迷いはその身を滅ぼすことになる。時に非情にならなければ、お前たち親子に安寧はない」
「っ⋯⋯⋯⋯!!」
その言葉を聞いた瞬間、マリアンヌは俯いていた顔をガバリと勢いよく上げる。マリアンヌの脳裏には最愛の息子の顔が浮かんでいた。
「⋯⋯オリヴァー⋯⋯あの子のためなら、私は⋯⋯⋯⋯」
震える声でそう呟く。
マリアンヌは死に戻る前の自分とオリヴァーの無残な死に様を思い出していた。
悲惨な運命を受け入れて、抵抗しようなんて考えもしなかった無力で愚かな過去の自分。そんな自分のせいで、何よりも大切な息子を失ってしまった。
(でも、神様が————いいえ⋯⋯気まぐれだけど優しい悪魔が、私にもう一度チャンスをくれた。私はどんな事をしてでも、この一度きりのチャンスを掴み取らなければならない。次こそは絶対に、オリヴァーが笑顔でいられる世界を作ってみせるわ⋯⋯!!)
運命をただ受け入れているだけでは、再び同じ結末を迎えてしまうだろう。抗わなければ、自分たちに未来は無い。
運命に抗ってでも、幸せは自分の手で掴み取るのだ————。
(私は分かっていたつもりでいて、心からは覚悟を決められていなかったのかもしれないわね⋯⋯。でも、もう決して迷わないわ⋯⋯!)
マリアンヌはギュッと力の限り拳を握り、強い意志を以て口を開く。
「今は⋯⋯少しも罪悪感が無いと言えば嘘になるわ。でも、決して後悔なんてしていない⋯⋯! 必ずやり切ってみせる。だって私はオリヴァーを守るためなら何だってするって誓ったもの!!」
「⋯⋯⋯⋯」
マリアンヌの力強い宣言を受けたサタンは、目を細めて問うた。
「⋯⋯お前の敬愛してやまない神にか?」
漆黒の瞳は暗く冷たい眼差しでジッとマリアンヌの次の言葉を待っていた。
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