悪魔と歩むこれからの路②


「復讐を果たした今の気分はどうだ?」

「とりあえず一つ、肩の荷は下りたわね」

「いやァ、無事に成功して良かったですねェ!!」


 サタンと話をしていると、どこからともなく姿を現したストラスも2人の会話に交じる。



「ええ、ストラス。貴方のおかげよ⋯⋯本当にありがとう」

「いえいえェ~! マリアンヌさんのお役に立ててよかったですよォ。⋯⋯それでは、また御用がございましたらお呼びくださいねェ!」


 その言葉を最後にストラスの身体は徐々に黒い煙となり、ゆっくりと空気に溶けて消えていった。


 そのようすをサタンと2人、マリアンヌは静かに見送る。そして僅かな沈黙の後、それを破ったのはサタンであった。




「⋯⋯もう、気が済んだのではないか?」


 珍しく探るようなようすのサタンの言葉に、マリアンヌは思わず小さく吹き出した。


「いいえ、まだ私の復讐は終わっていないわ。だから、ウィンザー一族を滅ぼすその時まで⋯⋯貴方の力を貸して頂戴、サタン様⋯⋯」






✳︎✳︎✳︎






 マリアンヌの夫であるフレディ・ウィンザー公爵が危篤状態であるという知らせを受けたのは、エミリーの部屋を後にしてから直ぐの事だった。

 恐らく、これからこの屋敷では今よりもっと熾烈しれつな後継者争いが繰り広げられることだろう。



(これからは更に気を引き締めなくてはね⋯⋯)


 マリアンヌは、やや沈んだ気分で自室の扉を開ける。




「お母様ーっ!!」


 部屋に戻ると、そこにはマリアンヌの最愛の息子————オリヴァーが待ち構えていた。



「あら、オリヴァー! 来ていたのね」

「うん! なんだかとってもお母様に会いたくなって⋯⋯!!」

「ふふっ⋯⋯嬉しいわ」


 ぱあっと花が咲くような笑顔で駆け寄るオリヴァーをマリアンヌは優しく受け止める。

 小さく温かい身体をギュッと抱きしめると、オリヴァーはもぞもぞと身じろぎしてマリアンヌに向き直った。

 オリヴァーはマリアンヌの顔を目にするなり、赤い瞳を不安げにゆらゆらと揺らしてマリアンヌの事を心配そうに見つめる。



「⋯⋯⋯⋯お母様? なんだかいつもより元気が無いみたい⋯⋯何か嫌なことがあったの⋯⋯?」

「⋯⋯いいえ、何もないわ。オリヴァーの事が大好きないつものお母様よ」


 オリヴァーの身体を抱きしめたマリアンヌは先程までの懸念や疲労感もすっかり吹き飛んでいた。嘘偽りなく答え、今にも泣き出しそうな顔をするオリヴァーを安心させる為ににっこりと微笑む。

 マリアンヌの笑顔を見たオリヴァーも途端に明るい笑みを見せた。


「僕もっ、僕もお母様のことがだーいすきだよ! ずーっと、何があっても大好き!」


 オリヴァーの笑顔に満たされた心地になったマリアンヌは再び愛する息子を強く抱きしめた。

 そして、小さいけれど決して当たり前では無い幸せを大切に噛み締める。




「⋯⋯愛してるわ、オリヴァー」




(私は、この子の笑顔を守る為ならなんだって出来る。悪魔にだって喜んで魂を差し出すわ。⋯⋯だから、神様————。どうかこの子に、オリヴァーに幸せな未来を————)



 マリアンヌは胸元に輝くロザリオを握りしめ、ひっそりと神に祈る。


 足元の影がマリアンヌの行動を咎めるようにゆらりと揺れた気がした。





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