薬学の悪魔ストラス②


「ち、ちょっとした冗談ですよォ? ほら、第一印象って今後の良好な関係を築く為に何よりも大切じゃないですかァ⋯⋯!」


(こ、これがストラスなの⋯⋯!?)


 サタンに背中を蹴られながら召喚陣の外へと出てきたストラスの姿は、マリアンヌの想像とは大きく異なっていた。



 ストラスはサタンから聞いていたような猛禽もうきん類の姿では無く、もふもふしたピンクの毛色が特徴的な可愛らしい容貌の男の子であった。悪魔の実年齢など知るよしも無いが恐らく、オリヴァーよりも少し上くらいの年齢の外見だろう。

 一見、人間の子どもと見紛う程だが、彼の特異すぎる点はフワフワと宙に浮いていることである。


(やっぱり悪魔って人を堕落させることが仕事だから、皆目を惹くような外見をしているのね⋯⋯)


 マリアンヌがサタンとはまた違った整った顔立ちをしているストラスに見入っていると、彼は再び戯けたような軽い口調で話し始めた。


「ゴホンっ⋯⋯それでェ、ボクは何をすれば良いんですかァ?」

「コイツにお前の知恵を貸せ」


 サタンはそう言ってクイっと顎で後ろに佇むマリアンヌを指した。


「⋯⋯⋯⋯」


 サタンの方を向いていたかと思えばストラスはフクロウの如く、突然ぐりんと首を回してマリアンヌを見つめる。髪と同じくピンク色の瞳の見定めるかのような視線にマリアンヌはビクリと肩を揺らした。


「⋯⋯はいはいっとォ。それで、マリアンヌさんは何を知りたいんですかァ?」

「え、ええ。⋯⋯その事については部屋に戻ってから話しましょう。召喚時の光で人が来るかもしれないし、いつまでもここにいて見つかっては事だわ」





✳︎✳︎✳︎





「改めまして、ボクはストラス。序列36番目にして地獄の大君主ですゥ。マリアンヌさんにはサタン様がお世話になっているようでェ」


 ふよふよと空中を移動してマリアンヌの前までやってきたストラスは、握手を求めるようにマリアンヌに向かって小さな手を差し出した。



(言動は軽そうだけど、意外と礼儀正しいのね)



「よろしくね、ストラス」


 マリアンヌはにこりと微笑み、ストラスの手を握り返す。


「おい、今コイツ、お前のこと馬鹿にしてたぞ」


 またもやソファでふんぞり返ったサタンがニヤニヤと笑いながら横槍を入れた。


「えェ!? マリアンヌさん、ひどいですゥ⋯⋯」

「ちょっと、サタン様! 勝手に人の心を読むのはやめて頂戴! それに、ストラスのことを馬鹿になんてしてないわ! ⋯⋯意外と礼儀正しいのねって思っただけよ」

「ボクのどこが意外なんですかァ! どこからどう見ても紳士的な大人の男性でしょォ!?」

「え⋯⋯ええ。そう、ね⋯⋯⋯⋯?」


 子どもの姿をとるストラスに対し、強気に出られず狼狽うろたえるマリアンヌを見たサタンは腹を抱えてゲラゲラと笑っている。



(サタン様、覚えてなさい⋯⋯!!)


 そんなサタンの姿を見たマリアンヌは、ひっそりと彼への逆襲を企てるのだった。









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