第41話 闇魔術師を溺愛希望する1
相変わらず食堂で皿の芋を避けていると、お盆を持ったカメリアが隣に座った。
「ちょっと~、未来の侯爵夫人が騎士団で働いていていいの?」
「結婚までは、働くのを婚約者が許してくれているの」
「うわっ……ジャニスからのろけを聞くなんて、世も末だわ~」
「麻薬組織の件では情報提供ありがとね」
お礼を言うとカメリアが口を尖らせた。
「いえいえ、私が情報漏らしたことは即バレしていたけど、アルベルト副団長が不問にしてくれたからいいのよ」
私に情報を流したことをアルベルト兄さんに咎められたのだろう、カメリアの言葉に棘がある。
「まあまあ。私の周りの情報通と言えばカメリアだからね。情報量が正確で、収集が早い、凄腕だもの」
「ちょっと、褒めないでよ。そうやって褒めるから許しちゃうんじゃんか」
あれから、私は騎士団にもどり、新米騎士として仕事を続けている。
いずれはカザーレンの屋敷を守っていかなくてはならないけれど、体を動かす方が性に合っている。
しかも身体能力が爆上がりで楽しいったら。
母は『ありえないわよ! ジャニスちゃん!』と怒っていたけど、父はなんとか騎士を続けることで婚約破棄にもっていけないかと考えているようだった。
なんとも小賢しい。
そこで食堂がザワザワしだした。
顔を上げると向こうからフロー様がやってきた。
嬉しくて手を上げると彼は微笑んで真っ直ぐこっちにやってきた。
今日も私の婚約者は神々しいほど美しい。
「カ、カザーレン様」
「座ってて。挨拶はいいよ。カメリアさんだっけ。これからもジャニスをよろしくね」
「は、はいっ」
私を挟んで反対側に座ったフロー様にカメリアが緊張している。
彼は人嫌いだが、私の周りには気を使ってくれるようになっていた。
加えて、魔力適合者がいると周りの影響を受けにくくなるので楽になるらしい。
「ジャニス、また芋を避けてるの? 初めから入れないように頼めばいいのに」
皿に残る芋を見て、フロー様がクスクスと笑った。
「それはそれで負けた気になるんですよね……それに、芋の入り具合でその日の幸運度を計っているんです」
「面白いことをするんだね。ちなみに今日の幸運度は?」
「フロー様がきたので、最高です」
「……外で可愛いこと言わないで」
「あ、あの! 私は食事が済んだので失礼します!」
そんな会話をしていると、秒速でトレーのご飯をかっこんだカメリアが立ち上がった。
「あれ、もう行くの?」
「生憎、極甘の雰囲気に耐えられそうにもないんでねっ」
カメリアは小さく私に言った去っていった。
「彼女、なんて?」
聞こえなかったフロー様が首をかしげる。可愛い……。
「私たちの甘い雰囲気に耐えられないって」
「そんなに甘かった? どこが?」
「さあ……わかりませんね」
「ジャニス、幸運度を上げるのに僕が食べるよ」
フロー様がお皿の芋を食べてくれるというのでフォークで刺して口に運んだ。
ごく当たり前に食べさせただけなのに『キャー……』とどこかから黄色い声が上がった。
こうやってフロー様が城の食堂に現れるようになってから、闇魔術師もちらほらと利用する者が増えてきた。そうするうちに騎士との交流もわずかながら増えているようだ。
とにかくフロー様は私と一緒にいたくて仕方ないのだけどね。
今となってはフロー様の方が犬のようだ。
私たちは週末の休みにカザーレンのご両親のお墓詣りに行くことにした。
ニッキーのお墓はフロー様が離れたくなくて屋敷に作ってしまったけれど、お母様のお墓の隣に名前だけでもとプレートを置いてあげることにした。
小さな墓石の下にはお気に入りのウサギのぬいぐるみをいれることにした。
お母様の温室の花でザイルに花束を作ってもらった。
フロー様が温室に足を踏み入れたことに感動した彼が作った大作を、きっとお母様は喜んでくれるに違いない。
「ずっとこなくてごめんね」
下を向いたフロー様の手を握ると、きゅっと握り返された。
「今日は二人に報告にきたんだ。愛する人ができました。次の春には結婚します」
ご両親の墓石にフロー様が報告して、私も挨拶した。
「ジャニス=ローズブレイドと申します。フロー様を愛しています。大切にしますからどうぞ、結婚をお許しください」
「ふふ、許してくれるに決まってるじゃない」
「そんなの、わからないですよ。ちゃんとこういうことは承諾をとっておかないと」
「大切にしてくれるの? 僕を?」
「しますよ? 当たり前でしょう」
「当たり前って……ほんとうに、君にはかなわない。大好きだよ、ジャニス。もちろん、誰よりも」
「私はね、フロー様。あなたのご両親とニッキーの分も愛しますよ」
「……なにそれ。ほんとうにかなわないや」
泣きそうなフロー様を抱きしめる。
フロー様の胸には大きな穴が開いている。
大切な人を亡くす経験はまだ私にはないけれど、ニッキーの記憶を通じて、大切な人を残して逝く辛さは経験していた。
私の愛があなたに届きますように。
あなたの心の冷たさを温める毛布になれますように。
私のできることはささやかであるけれど、誰よりもあなたを愛する自信があります。
「屋敷に帰ろうか」
「はい。そんなにくっついたら歩けませんよ」
「ジャニスが僕の腕を組んだらいいんでしょ」
「じゃあ、そうします」
互いにじゃれ合いながら歩く。
「ジャニス、愛してるよ」
ふいに立ち止まって言ってくるフロー様に、返事の代わりに首の後ろに腕を巻き付けた。
「もちろん、私も愛してます」
そうして私はそのまま、その唇を奪ってやった。
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