第40話 最後の浄化

「それで、事件も解決したのに、どうしてお前は家に戻ってこないんだ。父さんも母さんも『ジャニスが帰ってこない』って涙目だったぞ」

 休日に久しぶりに実家に帰ると同じく帰ってきていたアルベルト兄さんと鉢合った。


「寄宿舎にいる時からそんなに屋敷へは帰ってませんけど? 大方父さんがフロー様を気に入らなくて騒いでるんでしょう? 今日顔を見せにきたのだからいいのではないですか」

「う……」


 図星だったようでアルベルト兄さんが口をつぐんだ。

 どうせそんなことだろうと思った。

 私の婚約が決まってからずっと『筋肉がないんだぞ!』と訳の分からない反対をしているのだ。

 面倒というしかない。

 一方母が浮かれまくって喜んでいるので、きっとそれも気に入らないのであろう。


 今回の麻薬組織壊滅にあたって、フロー様は闇魔術師と騎士との連携が功を奏したと騎士たちを褒めた。(多分本人は私との連携のことを言っていたのだろうけれど、アルベルト兄さんの頬はだらしなく緩んでいた)

 そのおかげで対立していた闇魔術師たちと騎士団は互いを苦手に思わず、もう少し歩み寄って、交流を深めていこういう話になった。

 私とフロー様の結婚も、和解の象徴的なものだととらえる人も多い。

 私が騎士団に戻って仕事がしたいと言うとフロー様はただ静かに笑って『ジャニスならそう言うと思ったよ』と言った。

 それから私の可愛いダガーに付与魔法をかけてくれた。


 ……ただし、危険な任務には一緒に行くと言われてしまった。

 私の婚約者は過保護である。




「それよりダガーのホルスター届いてませんか?」

「お前、それ取りにきただけだろう」

「まあまあ」

「ジャニスが欲しいのはこれか~?」

 そこにトリスタン兄が現れた。

 私が頼んだホルスターが入っている箱を持っている。

 先日、武器屋で頼んでいたものが手違いでカザーレンの屋敷に届かず、ローズブレイドの屋敷の方に届いてしまっていたのだ。

 私が手を出すとトリスタン兄はその箱をアルベルト兄さんに投げた。


「ほいよ」

 これは昔から私をからかうときに二人がやる行動だ。

 はあ、子供っぽい。私が今度はアルベルト兄さんのほうに手を伸ばすと、案の定今度はトリスタン兄さんに向かって箱を投げた。

 彼らより背の低い私がその箱を返してもらうには、膝裏に足を入れてカックンとするか、金〇するかの二択なのだが、当然兄も予測してその対処はしてくる。

「そうくると思いましたっと」

 しかし私はジャンプして頭上高く飛ばされた箱を見事キャッチする。

 してやったりとニヤリと笑うと、下半身ばかり警戒していた二人が目を丸くしていた。


「なんだ、いつの間にそんな跳躍力が……どんな訓練を?」

「ふふふ、秘密です。さて、用は済んだので」

 絶句したあとに、フロー様になにか魔法をかけてもらったんだろう、とか後ろで二人が吠えている。

 なぜか私は嗅覚と跳躍力がニッキーに貰ったままなのだ。

 これは浄化がほぼ終わっているのに残っているので魔塔長もそのままだろうと言っていた。


 結局どうしてニッキーが私の中に入ったのかはわからずじまいだったけれど、リッツィ姉さんが『フローサノベルトにぴったりの伴侶を見つけてきたんだから、それでいいじゃない』と言ってくれたので、私もそれでいいと思うことにした。


 あれから私はほとんどの浄化を終えて、今日最後の浄化をしてもらうために魔塔を訪れる。


 最後のお別れに、フロー様とリッツィ姉さんも立ち会ってくれることになった。

「魔塔長様、よろしくお願いします」

「では、そこに横になりなさい」

 診察台に仰向けに寝転ぶとフロー様が心配そうに覗いていた。

「フロー様、手を握っていてくれませんか」

 私がそう言うとフロー様はきゅっと握ってくれた。そうして最後の魂の浄化が始まる。



 フロー、大好きよ。

 私ね、もう死ぬみたい。

 あなたを残して逝くのは心残りだわ。

 私はお母様に会いに行くから寂しくないけれど、あなたが気がかりよ。

 お母様と約束したの。あなたを残して逝く時がきたら

 蝶と同じ匂いを探してフローの元に連れて行くって。

 そうしたら、フローは寂しくないから。

 泣かないでフロー。

 愛してる。


 ニッキーの最期の記憶が私の中で蘇った。

 最期までフロー様を心配して、愛していたニッキー。

 彼女はフロー様のために魂になっても魔力適合者をさがしたのだ。


 ニッキーはフロー様のもう一人の母であり、姉であり、恋人だった。



「ジャニス……」

 目を覚ますと私は大号泣していて、そして、堪らなくフロー様を抱きしめたかった。

「ニッキーが蝶と同じ匂いの私を探して、フロー様のところへ連れて行ったんです」

「そう」

「お母様と約束したそうよ」

「うん」


 きっとそうだろうと思っていた。

 記憶を通してニッキーはフローのことをとても大切にしていたから。


「あなたを愛しているって言ってた」

「うん」

 ぎゅっとフロー様を抱きしめて、ニッキーのお別れを惜しんだ。

 私は大泣きしてしまったけれど、フロー様は泣かなかった。


 その日、ニッキーの魂は天国に向かった。

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