第39話 ニッキーとジャニス2
結局は話し合っても、ニッキーの魂の真相は分からずじまいだ。
けれど、私の中にニッキーがいるのは変わりない。
私は手を上げて発言した。
「確認していいですか? フロー様は私の体をニッキーに渡そうとはしていなかったのですよね?」
「もちろんだよ」
「でしたら、ニッキーの魂はこのまま預かっていてもいいです」
「え」
「は?」
私がそう言うとみんなの視線が集まった。
「これまでニッキーの魂が私を害することは一度もありませんでした。フロー様が望むなら私はニッキーと共に暮らしても構いません」
ポカンとした顔でフロー様が私を見ていた。
みんなの話を聞いて色々考えたが、それでもいいかと思ったのだ。
「……ジャニスは、それでいいの?」
リッツィ姉さんが震えた声で聞いた。
一緒にニッキーの魂をどうするか親身になって考えてくれたリッツィ姉さんには申し訳ないと思う。
「いいです。私はフロー様の心の支えになるならそれでいいです」
そう言い切ると、喜んでくれると思っていたフロー様が渋い顔をして私を見ていた。
そして、
「……とっても魅力的なお誘いだけど、それは断るよ」
と言われてしまった。
これが一番いいと思っていた私は困惑してしまう。
「どうしてですか?」
「ニッキーは天国で幸せになるべきだ。それにきっと母が待ってるから」
フロー様がそう言って、私の心がズドン、と沈んだ。
思ったよりもその言葉に私はショックを受けたようだ。
いつの間にかニッキーが自分の中に居ることで、フロー様を繋ぎ止めておけると思っていたようだ。
情けなくて。
ずるいことを考えていた自分が嫌になる。
「そう……ですね」
とかろうじて声を出すと、もうなんだか泣きそうだった。
両手を心もとなく動かしているとフロー様が私を呼んだ。
「ジャニス」
その優しい声が、ニッキーに向けられたものと同じだったと思うとさらに泣けてくる。
「……はい」
かろうじて答えられたけど、もうこれ以上は涙がこぼれてしまいそうだ。
こんなに自分がフロー様が愛しているとは思っていなかった。
けれど、なんとか感情をやりすごそうとしようとしていると信じられない言葉が聞こえた。
「愛してる」
フロー様は真剣な顔をして私を見つめていた。
「え?」
急に告白してきたフロー様に目が丸くなる。
それは私だけでなく、魔塔長もリッツィ姉さんもだった。
言葉をそのまま受け取れなく動くこともできない。
フロー様は告白を続けた。
「記憶玉をつけてきた時にはジャニスがニッキーの存在に気づいてしまったのが分かったよ。それからポルト様を頼って魂の浄化をし始めたと知った。黙っていたのは怖かったからだよ。ニッキーが君の中からいなくなったら、ジャニスは僕の元を去ってしまうかもしれないから」
それをいうなら私もだった。
ニッキーがいなくなったら、フロー様が離れていくと思ってこのまま魂と共存しようと持ちかけたのだから。
フロー様も、同じ気持ちだった?
「でも君が僕を助けにきてくれた時、そうじゃないってわかったんだ」
「そうじゃない?」
「ニッキーは僕にジャニスを連れてきてくれたけれど、ジャニスを捕まえておかないといけないのは僕なんだ。いつまでもニッキーに頼ってちゃいけないって」
「私を捕まえてくれるのです?」
「そうだよ、ジャニス。世界一、大切にする。ずっと側にいて欲しいんだ」
「私で、いいのですか? ニッキーがいなくなっても?」
「ジャニスがいいんだ。僕はカッコよくて、飾らない、不器用な君が好きなんだ。君の方こそ、僕でいいかな?」
「はい。寂しがり屋で、甘えん坊なフロー様が好きです」
私たちが互いに手を握り合うとゴホン、と咳払いが聞こえた。
あ……。
「では、納まるところに収まったな」
慌ててフロー様の手を放そうとしたが、ぎゅっと手を握りこまれた。
カッと顔が熱くなって耳まで赤くなったけど、フロー様は平然としていた。
「ポルト様、浄化はこのまま、お願いします」
そして魔塔長に頼んでくれた。
「まかせなさい」
少し笑いをこらえた魔塔長が快く了承すると三回目の浄化を行い、私たちは解散した。
「二人、仲良くな」
帰り際、魔塔長とリッツィ姉さんが改めて私たちの婚約を祝ってくれた。
「フロー様、ニッキーをお風呂に入れて散々な目にあわれてましたね」
二人を見送ってから私はフロー様にそう告げた。
「え?」
「浄化を行うと、ニッキーの記憶が私の頭に流れてくるんです」
「そうだった……参ったな、ジャニスにカッコつけられない」
「甘えてください、フロー様」
「うーん……でも僕は甘やかす方が好きなんだ」
「ふふふ、ではニッキー流で甘えます」
フロー様の胸にぐりぐりと頭を押し付けるとその手が優しく撫でてくれる。
「ジャニス……」
「はい」
「君が騎士であることに誇りを持っていることも、正義感が強いことも知っている。だから、約束して欲しいんだ」
「約束?」
「僕より、先に死なないでほしい」
「……」
「僕はきっと、もう愛する者に先立たれるのは耐えられないから」
懇願するように言うフロー様を見ていたら涙がこぼれた。
こんなお願いをしてくるなんて、フロー様のお母様が心配するのも無理はない。
私はごしごしと乱暴に目を擦ると、明るい声でそれに答えた。
「私はフロー様より年下ですよ? しかも女の人の方が寿命は長いと言われてます。だいたい、フロー様が側で守って下さればいいんです。こないだみたいに、ね?」
「……いつだって、君を守るよ」
その言葉に私は手を広げてフロー様を抱きしめた。
抱きしめ返してきた彼がとても愛おしい。
フロー、大好きよ。
心の中で声が聞こえる。
それはきっとニッキーとグローリア様の気持ちも含まれていると思った。
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