第34話 私のフローに手をだすな6
「ねえ、ジャニス。君の髪のリボンは僕があげたものじゃないよね」
闇魔術師の首にナイフを押し付けている私。
今、どうしてそんなことが気になったのだ、と驚く。
私は少年の変装をするために髪を帽子の中に押し込んでいた。
当然それではリボンは邪魔になるからつけていない。
帽子は壁を駆け上がるときに脱いだのだけど、どうして、今リボンの話に⁉
しかしフロー様はいたって真剣なようだった。
「そうですけど、それがなにか?」
「君には僕があげたものを身に着けて欲しいんだ」
「今する話じゃありませんよね? リボンはなくさないようにポケットに入れています」
私がそう言うと、フロー様は少し納得したようだ。
なんなの?
闇魔術師の男も訳が分からず、こんな話をしだした私たちにさらに恐怖を感じたようだ。ガタガタ震えている。
「じゃあ、後でちゃんとつけてくれる?」
「……任務が終われば喜んで」
私がそう言うと満足そうにしたフロー様は、チェストの上にあったひもを持ち上げた。
「な、なんなんだ、お前たち! なにをそんなに余裕かましてんだ!」
男が我に返って悪態をついた。
フロー様はそんな男を冷たい表情で見た。
「『マダム・キャット』の主要メンバーを五人を教えて欲しいけど、簡単には話さないだろうね。ちょうどいいからこれで縛るよ」
フロー様はひもに向かって詠唱し始めた。
するとひもは生き物のように男の手に絡みつき、両手を縛り上げた。
「こ、これは闇魔術……」
「そうだね、こんなの初期の闇魔術だね」
「だとしても、こんな、高度な……お、お前はフローサノベルドなのか⁉ そんな、 俺の魔道具で拘束されているはずじゃ……」
声を出したことで完全に幻影が解けて、男はフロー様の正体を知ったようだ。
「あんなもの、僕の魔力量を知らないから着けられたんだよね。この闘技場一帯を壊滅状態にすれば簡単に外せるのに」
「え?」
「僕のこと、嬲って楽しかったい?」
うっすら笑うフロー様に男がさらにガタガタ震え出した。
しかしそれより私が気になるのは……。
「嬲って? フロー様、この男になにかしたんですか?」
思わず力が入って首元を少しさっくりしてしまった。
ブシュッ、と飛び散った血がかからないように私は首を横に避けた。
「ぎゃああああっ」
「ジャニス、もう拘束したから下がっていいよ。僕が教えてもらうから」
「はい」
フロー様に言われてダガーを外して後ろに下がった。
今度はフロー様が男の前に立つ。
「これ、なにか知っているか?」
そしてフロー様は男に宝石を一粒見せた。
あ、アレは私が失くしてしまった記憶玉……やっぱりフロー様が持っていたのだ……。
これは私がニッキーになっていることを知ったと全て知られている。
「それがどうしたっていうんだ」
「記憶玉はその時あった時のことを録画できる機能がある。でもね、高位魔術師しかできないこともある。それは……」
フロー様は記憶玉を闇魔術師の男の額にくっつけるとなにかブツブツと唱えた。
すると、記憶玉が光って、男の頭の上になにかの映像が流れだした。
「は……、え?」
「さあ、主要メンバー五人を教えろ」
その声で映像が揺らぐ、そして覆面や面をつけた人物が次々と映った。
どうやら闇魔術師が考えたことが頭の上の映像に流れるようだ。
さすがに高度な魔術すぎてなにも言えない。
「なんだ、顔さえ明かされてもらっていなかったのか」
フロー様が呆れた声を出すと、男がびくりと肩を揺らした。
「あいつらは、絶対に姿を現さない。それらしき人物と話しはしたが、それが本物かすらわからないんだ」
男は言い訳するようにそう言った。
「なにか、他に手がかりは?」
私が聞くと青い顔で首を振る。
「しかし、自分の保身のために多少は調べただろう?」
フロー様の質問に男がハッとする。考えないようにしているのだろうけど、もう遅い。頭の上の画像には喫煙具で煙を吸う女が映っていた。
黒猫の面を顔半分にかぶり、堂々とした態度で椅子に座って、闇魔術師の男に金を渡していた。
「それが『マダム・キャット』なの?」
自分の考えていることを映し出されて、観念したのかその問いには『多分……』と答えた。
「では、もう用済みだな」
「え?」
フロー様が男に淡々とそう言った。
「お前がした一番残酷な仕打ちを自分の魔力で再現すればいい」
紙にさらさらと魔法陣を描いたフロー様が今度は記憶玉の代わりに男の額にそれを押し付けた。
すると、フロー様が拘束時に施されていたように魔法陣だけが額に残って光っている。
「そんな、馬鹿な……こんな魔法陣……魔塔長だって、いや誰だってできやしない……」
「闇魔術師に登録もせず、今まで好き勝手汚いことに手を染めたのだろう?」
「ひいっ……」
「思い浮かべればいい」
「い、いや、嫌だ……あれは、だって……」
男が何かを思い出し、そしてそれを考えないようにしているのか首を振った。
「カハッ……俺がしたんじゃ……」
しきりに責任逃れのような言葉をくりかえす男。
しかし、そんなことは無駄だったようで、男の体はみるみると水分が抜けて、しわしわになっていった。
バタ……。
最後にはミイラのようになった男が床に転がった。
「誰かを餓死させたのか……」
フロー様がポツリとつぶやいた。
きっと自分がした残忍な所業が返ってきたのだろう。
むごいことを……。
それを見ても私は同情などできなかった。
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