第14話 コンニチワ! 監禁生活1
結局、そのままフロー様に抱かれたまま、カザーレンのお屋敷に連れられて行った。
お風呂で洗われて返り血を綺麗にした私は、ボロボロになったドレスを脱いで身支度を整えて実家へと戻った。
……家に帰るだけなのに豪華なドレスを着せられた。
暗殺者はやはり、以前フロー様がつぶした麻薬組織の生き残りだったそうだ。
フロー様は『僕のせいでジャニスを危険に晒した』と『もうこのまま一緒に暮らそう』などど言い出した。
実家から母が大切に育ててきた一人娘なので何とか順番は守って欲しい、と早馬で懇願の手紙を出してくれなかったら今頃どうなっていたことやら。
ぶっちゃけ、アレが無かったら監禁されそうな勢いだった。
でも、なんで結婚……。
「ジャニス、入るわよ。って、あなたなにしてるの!」
「あ、お母様。なにって、屋敷から出してもらえないので部屋で鍛錬を……」
フロー様の屋敷で監禁されることは無かったが、今、実家に監禁状態になっているのは屋敷全体にフロー様が防御魔法をかけたせいである。
「とにかく、筋肉をつけるのはやめてこちらに来て。メイジー様から感謝のお手紙をいただいているから」
「感謝?」
「メイジー様は貴方が助けてくれたといたく感動なさったそうよ」
「フロー様のパートナーを務めた私に怒ってらしたけど」
「そのことも謝罪されてるわ。……なんというか、とてもあなたが凛々しかったと、その、今まで見たどの殿方よりも素敵だったと言っておられたそうよ」
手紙には感謝と、謝罪、そして自分の護衛騎士になって欲しいと書かれてあった。
「お母様、なんとメイジー様が護衛騎士になって欲しいと書いてくださっています」
「はあ。貴方はその前に第四王女のレーニア様を救ったときにも護衛騎士の要請を断っています。メイジー様の護衛を受ければ王女様同士でいざこざが起きるでしょう」
「私のような未熟なものには王女様たちの護衛はまだ早いですからね」
「……あちらはそうは思っていないようですけど。それより、ジャニス、貴方にカザーレン侯爵家より正式な求婚の書状が届いているわよ? 護衛騎士うんぬんの話より、暗殺者が全員捕まるまで婚約者を守りたいと、こんな大袈裟な防御魔法がかかっているのです。パーティで大勢の前で宣言なさったそうだし……その、断るなんて選択肢はないのだけど……幸せになれそうかしら」
「……求婚ですか」
『愛している』は本気だったのだろうか。
思い出すだけでも顔が火照ってしまう。
急に結婚なんて言われても、どうしたらいいのだろうか。
正直、デートも重ねて優しいことも知っているし、何より筋肉を自慢しない美男子だ。いいところは浮かんでも悪いところは浮かばなかった。
私はフロー様のことを好きなのだろうか。
顔は……好きだ。あんな美しい人を嫌う人はいないだろう。
性格も……いまのところ嫌なところはない。
家柄は……恐れ多いけど、向こうが私を望んでくれるなら。
「ジャニスはカザーレン様が好きなのね」
「えっ?」
「今、カザーレン様のことを考えたでしょう?」
「……」
「恋している顔をしているわ」
嬉しそうに笑った母に言われて胸が苦しくなった。そうか、私はフロー様のことを……。
「でも……」
「お父様は嫌がっていたけど、正式にお返事を出しておくわ。ジャニスが好きな人と結婚できるならこれ以上嬉しいことはないものね」
母はそう言って私の部屋を出て行った。
でも、お母様。
フロー様が結婚したいのは、私にニッキーを重ねているからなのです。
危ないっていっても、貴方と会えないと辛いのだもの
ねえ、一緒に暮らしたい
前みたいに一緒のベッドで眠りたい
私をここから出して
愛してるの……
「あ……」
朝目覚めた私は涙を流していた。なんだか切なくて悲しい。
昨日母と話をしたせいだろうか。
体を起こすと風を感じる。
不思議に思って窓の方をみると数センチ開いていて風が入ってきていた。
防御魔法がかけてあるから、賊が侵入することは無いけれど、どうして開いているのだろうか。
ふとみると足の裏が真っ黒だった。
「え」
この状況、どう見ても私が外に出ていたと考えておかしくない。
バルコニーに出ると真下の地面に飛び降りた時についたのだろう、足跡がついていた。
足跡の大きさからみても私のもので間違いなさそうだ。
防御魔法はその先のところから張ってあるのでバルコニーから降りられたとして移動したのは大した距離ではないだろう。
「まさか、ストレスで夢遊病?」
確か数年前に城勤めの侍女が恋人に酷い捨てられ方をしてから、夜中に城を徘徊するようになったと聞いたことがある。
なんでもストレスによる夢遊病だったとか……。
ストレス……。
確かに屋敷から出られなくなったことにストレスを感じていた。
日課のジョギングも中庭をぐるぐる回るだけで物足りない。
どうしよう……。
考えても仕方ない、と私はその夜、ベッドに手錠をかけて、自分の片腕と繋いだ。
もしも本当に意識がないまま、徘徊していたとしたら困る。
そして次の朝、私は部屋中が真っ白になっているのを目にするのだった。
「なんだ、コレ」
部屋の中が恐ろしいことになっている。
羽が飛び散っているかと思えばそれは枕が切り裂かれていたようで、一晩中切りつけたのか私の腕の鎖が歪んでいて、枕元に常備していたミスリルの短剣が床に転がっていた。
「危ない、もう少しで千切れるところだ」
きっと目覚めるまでもう少し時間があれば私は手錠の鎖を切ってしまっていただろう。
無意識って怖い。
しかし、夢遊病とはこんなにアグレッシブなのか?
不安になった私はリッツイ姉さんに相談しようと手紙を出した。
すると彼女はすぐに私の屋敷まで訪ねてくれた。
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